解説:
1:臍部から放射状に走る腹壁静脈怒張はメズーサの頭と呼ばれるものである。肝硬変では、門脈圧上昇により肝臓を通らずに大静脈に血流を導く側副血行路(静脈)を流れるようになるので静脈が拡張する。腹壁には腹壁静脈叢、上腹壁静脈を経て上大静脈にいたる側副路があり、メズーサの頭はこの腹壁の静脈の怒張によって生じる。この他、胃噴門から食道粘膜下静脈叢を経て上大静脈にいたる側副路があるので静脈叢が拡張して食道静脈瘤が形成されることがあり、また、肛門周囲静脈叢、内腸骨静脈を経て下大静脈にいたる側副路もあり、静脈叢が拡張して痔核が形成されることがある。
2:下大静脈血栓症は、血管内皮細胞の傷害、血流の悪化、血液性状の変化などによって下大静脈内で血液が固まった状態である。静脈怒張は起こらない。
3:臍ヘルニアは、膳から腸の一部が脱出したものであり、静脈怒張ではない。
4:急性膵炎は、アルコールの過飲をする飲酒家に多く、上腹部、特に心窩部の激痛、嘔気、嘔吐、腹部膨満感などを訴える。また、膵液の逆流によって急性の炎症を起こすことがあり、たとえば胆石が総胆管内を降下してきて十二指腸乳頭部を閉塞したために胆汁が膵管内に逆流して膵液中の酵素を活性化して炎症を起こす。活性化された酵素によって自己消化を起こし、膵組織の壊死や周囲脂肪組織の壊死、血管破壊による出血などが起こる。急性膵炎では門脈の閉塞による門脈圧の上昇はみられないので腹壁静脈の怒張は生じない。