この記事では、あん摩マッサージ指圧が「あん摩」「指圧」「マッサージ」と併用する『温罨法(おんあんぽう)』について解説しています。
温罨法とは
温罨法とは以下を指します。
いわゆる温熱療法の一種です。
入浴すると血流が促進、副交感神経優位でリラックスできることにより、痛みも緩和されます。
筋肉が緩みやすくなるため「あん摩指圧マッサージの効果」も出やすくなるため相乗効果が期待できるというメリットも。
訪問マッサージの適応となる高齢者に対しては特におススメ。高齢者は強い刺激を加えるリスク(肋骨骨折、もみ返し)が高くなりますが、温罨法と併用することで低刺激のマッサージで効率よく効果を出すことが可能となります。
あるいは、ストレッチング・関節可動域訓練といった『変形徒手矯正法』の前処置としても効果的ですし、運動療法前に施行することでモチベーションの低下も防げます。
この用に温罨法は単独で実施しても効果的ですが、ほかの施術と組み合わせることでさらに相乗効果は得られます。
特に冬場に実施する温罨法は抜群に効果的だと思います。
温罨法の効果
前述したように様々な効果がある温罨法ですが、それら様々な効果をまとめると以下になります。
- 疼痛の緩和
- 痙縮の軽減、スパズムの緩和
- 軟部組織の伸張性増大(拘縮の改善)
- 創傷の治癒促進(血流増進による効果)
- 心理的なリラクゼーション
温罨法の湿熱効果と乾熱効果
一概に温罨法といっても「乾熱式」と「湿熱式」があるのをご存知ですか?
乾熱式
乾熱式というのは、日常でいうところの「電気ストーブに当たる」などが該当します。
治療としては赤外線療法・マイクロ波療法などが該当します。
湿熱式
湿熱式というのは、日常でいうところの「入浴」などが該当します。
※治療としてはホットパック・蒸しタオルを充てるなどが該当します。
湿熱式は乾熱式に比べて生体温度の上昇率が高いとされています。
たとえば電気ストーブ(乾熱式)でスゴク温まっても、その場を離れるとすぐに効果が薄れてしまうみたいな感じ。
あるいは入浴で十分に温まったら、その温熱効果はある程度持続するので、その後もポカポカした状態のままぐっすりと睡眠できるイメージは分かりやすいと思います。
一方で湿熱性の温罨法は、実施すみやかに水滴などをふき取る必要があります(皮膚表面を水が気化する際に熱を奪うため)。
入浴後に水滴を十分にふきとらない状態でウロウロしていたら、余計に寒くなってしまった(湯冷めする)という経験はありませんか?
あるいは(温罨法ではありませんが)小雨に濡れて帰宅後に、髪を十分に乾かさずに過ごしていると(熱が奪われ)風邪を引いたなんてことも、イメージしやすいと思います。
この様に湿熱・乾熱はそれぞれにメリット・デメリットがあるので、上手に使い分けることが大切です。
温罨法の方法
温罨法には様々な方法があります。
例えば前述した入浴。
「入浴をすると心が落ち着く、痛みが和らぐ」などの経験をした方も多いのでは?
温泉療法に関して「温泉独自の効能がどの程度か」は別として、「温泉は効果がある」という気持ちを上乗せした心理様態で気持ちよくお湯につかるという行為は、心身に好影響をもたらすのは明らかです。
ホッカイロも温罨法に活用できなくもありません。
この様に「温罨法」には様々な種類が存在しますが、ここでは「施術として用いれそうな温罨法」を紹介してみます。
施術で用いることの多い温罨法
施術で温罨法を用いる場合は、「ハイドロコレータ」という専用の機械で75~80℃に加熱しておき、使用します。
※病院に行けば、リハビリ室で当ててもらている人を見かけると思います。
一方で、ハイドロコレータ―を使用せずともホットパックと同様な「湿熱性な温熱療法」の効果を自宅でも体験することは可能であり、例えば「モイストヒートパック」といった商品があります。
レンジでチンするだけで、湿性ホットパックが体感できます。
※(冷凍することで)寒冷パックとしても使用ができ、手洗いや洗濯も可能。
サイズも様々あり、形状も例えば以下の様な頸~肩に特化した物もあります。
このモイストヒートパックは「メディビーズ」という素材を使用しており、この素材のおかげでレンジで温めると湿性の温熱療法を体感することができるのが特徴です。
※ただし、メディビーズの特性上、数時間(モイストヒートパックの場合は2時間以上)は放置して空気中の水分を吸収させなければ、再利用できないため、連続加熱・連続使用は出来ない点には注意してください(メディビーズは自重の30%の水分を保持、放出する特性があり、これによって湿熱効果が得られます)。
したがって、訪問マッサージにお勧めしたいところですが、1つを使いまわせないのが難点です(2時間以上放置しないといけないので)。
また、(医療機器を謳っているからか?)値段が高いのも難点です。
なので、もう少し安価なもので、「レンジでチンして、湿性の温熱効果が得られる商品」としては以下もあります。
※メディビーズを使用しているかは不明です。
ここでは、あくまで医療よりな商品を紹介しましたが、「レンジでチンして、身体を温めたい」というだけでしたら、ドラッグストアでも500円~1000円くらいで売っている商品もありますし、ぜひ探してみてください。
※もっと極端なことを言うと「蒸しタオル」でも良いですが、頻繁に温罨法をしたいならグッズがおススメです。
乾熱式としてはホッカロもあり
ホッカイロを複数利用して「独自の温罨法グッズ」を作るのもアリです。
これなら1日は使えます。
使い捨てなので費用面を考えるとデメリットですが、レンジで温める時間が省けるので、「限られた時間で訪問マッサージをする必要がある」っとなると考えてみても良いかもしれません。
温罨法の禁忌・リスク
この記事で一番重要な内容です。
温罨法の効果は、なんとなく理解できると思います。
ですが施術者として重要なのは禁忌・リスクを理解することです。
良かれと思って実践することで、状態を悪くする、下手をすると寿命を縮めてしまうことすらあり得ます。
そんな「温罨法の禁忌」は以下の通りです。
急性炎症
創傷・痛風・リウマチ性関節炎などの急性炎症期では、温熱によって炎症は助長されます。転んでたんこぶが出来たときに、その部分を「温めるのではなく、冷やす」というのがイメージしやすいかなと。
悪性腫瘍
温まることで、腫瘍の成長を促し、転移の危険性も増すと考えられています。
よく「温めると新陳代謝を活性化させ~」っというのがメリットのように取り上げますが、その新陳代謝の活性化が悪性腫瘍も活性させてしまう可能性があるってイメージです。
感覚障害と意識障害
熱傷の危険が高いので通常は禁忌とされます。「低温やけど」という表現が理解しやすいと思います。
感覚障害があると「本来ならやけどするレベルの熱さ」でも気持ち良いと思ってしまう可能性があります。そして、気づいたら火傷をしていることも。
また、1・2分なら気持ち良い温かさでも、その温かさが持続したら火傷につながるということもあるので注意です(これを「低温やけど」と呼びます)。
出血傾向
末梢血管が拡張し血流増加しているため、創傷時は止血しにくくなります。
循環障害・動脈硬化
血流による熱の放散が妨げられているので熱傷の危険が高くなります。また局所の代謝が温熱で亢進するため相対的虚血となり、壊死に陥る危険を生じます。
急性期の重篤な疾患
重症な心疾患など。前述した悪性腫瘍も含まれます。
訪問マッサージで温罨法の使用を検討する場合、様々な疾患・症状を抱えている方を対象にすると思います(治療院へ出向いて来れる人とは、状態が大きく異なっています)。
高齢者は皮膚が薄くなっていると低温火傷も起こしやすいですし、「湿熱性の温罨法」であれば施術後にジンワリと体に残った汗を拭きとってあげなければ風邪をひく可能性も高くなります。
どうしても温罨法のメリット(免疫力向上や血流改善による発痛物質除去など)ばかりに目を奪われがちです。
そして確かにメリットも大きいのですが禁忌・デメリットにも注意が必要。
医療として温罨法を実践しようと思った場合、これらの点を整理して臨みましょう。