この記事では、肩関節疾患として以下を記載していく。
- 五十肩
- 腱板の問題
- 石灰沈着性腱炎
- 上腕二頭筋長頭腱炎
また、リスク管理として以下を鑑別することも重要となる。
- 外傷(例:骨折・脱臼など)
- 内臓関連痛(例:心臓・胆嚢など)
- 炎症(化膿性炎症)
・・・など
肩関節周囲炎
肩関節周囲炎の概要は以下の通り。
好発年齢
40~50代に好発
※上記の年齢で、特に明らかな外傷がなく、肩関節のあらゆる方向への疼痛性可動域制限が出現する。
症状
肩関節の疼痛性運動制限(自動運動・他動運動)
徐々に発病してピークに至る(急性な発症は稀)
寒冷時に疼痛増強しやすい。
夜間痛を認めやすい(急性期における肩全体の炎症・アライメントの崩れなどの要因)。
結髪結滞動作困難
屈曲・外旋が制限される ⇒結髪動作困難
(伸展+内転+)内旋が制限される⇒結滞動作困難
80%は1~2年で自然治癒
肩関節医学会のデータでは、肩関節周囲炎は平均1年・最長2年で自然治癒することが分かっている。問題は疼痛消失後の可動域制限であり、亞急性期以降に予防・改善することは重要。
検査
単純X線は異常なし
鑑別すべき疾患
肩峰下滑液包炎・腱板炎・インピンジメント症候群・腱板断裂・石灰沈着性腱板炎・頸椎症性神経根症・肩関節脱臼
治療
治療の種類
- NSAIDs⇒内服・湿布
- 関節注射⇒ステロイド剤など(数時間しか効き目ないが、24時間痛いのでその場だけでも痛みが消失すると喜ばれる。痛みの悪循環を断ち切るためにも有効)
- 温熱⇒ホットパック(自身では入浴・カイロなど)
- 関節拘縮に対するリハビリ(急性期はNG)。
病気別治療
- 疼痛期⇒疼痛緩和を目的に安静・服薬など
- 亜急性期~拘縮期⇒可動域改善に対しての徒手療法・運動療法
※重複するが、「疼痛+拘縮期」で1年程度かかることが多い点を患者説明をしっかりする。
腱板断裂(腱板の問題1)
回旋筋腱板断裂の概要は以下の通り。
発症年齢
青壮年(20代)
- 外傷で発症
- 例えば、転倒時に手を突くなど。スポーツ時に発症することも多い。
中年以降(50代)
- 変性腱板への微力な外力により発症。
- 単なる日常生活動作でも発症する。
- 肩関節周囲炎と異なり受傷機転がハッキリしているのが特徴。
腱板損傷は、棘上筋断裂が最多
腱板損傷は棘上筋断裂が最多であり、棘上筋には以下の解剖学的特徴がある。
- 生体内で2つの骨(「上腕骨」と「肩甲骨の肩峰」)に挟まれた唯一の筋。
- 肩外転時に烏口肩峰弓により摩擦を受ける。
- 筋腹が短く、腱性の部分が長い。
症状
発症直後:
断裂直後は、肩の安静時疼痛・夜間痛。2週間くらいで消失。
Painful arc sign:
自動的に外転した時60~120°の間で疼痛出現(60°以下や120°以上では痛くない)。
棘上筋に炎症が生じていれば陽性になる。したがって確定診断に使えるわけではない(棘上筋がトラブっているという解釈に使える)。
※Painful arc signはインピンジメント症候群でも生じる。
Drop arm sign:
「肩関節90°外転位の保持」を指示しても、疼痛・筋出力の影響で、すぐに上肢を下垂してしまう。
Impingement sign:
Neer test・Howkins testが陽性になってしまう。
インピンジメント症候群でも生じる。
検査
X線・MRI。MRIは確定診断となる。
MRIにて、「完全断裂」「大きな損傷」「小さな損傷」などが確認できる。
治療
まず保存的に2~3週三角筋で固定。
↓
- 疼痛消失・他症状ナシならそのまま。
- 疼痛消失だが、外転時に疼痛あり⇒手術 or 嫌なら保存的療法
鑑別すべき疾患
五十肩・石灰沈着性腱板炎・変形性肩関節症・インピンジメント症候群など。
インピンジメント症候群(腱板の問題2)
インピンジメント症候群とは
「インピンジメント=衝突」である。
烏口肩峰アーチ(肩峰・烏口肩峰靭帯・烏口突起で形成)が、その下を通る腱板・肩峰下滑液包にぶつかる⇒このような状態が慢性的に続くことで痛みが発生することを「インピンジメント症候群」と呼ぶ。
発症機序
肩関節は構造上の特徴を基盤として、色々な形態的、機能的因子が加わった状況で、肩を繰り返し使用することで起こる。
症状
- 運動痛と夜間痛
- 大結節前方(棘上筋付着部)の圧痛
- ペインフルアークサイン(Painful arc sign)
- インピンジメントサイン(Impingement sige)⇒Neerテスト・Howkinsテスト
不安定性も有する場合は以下が陽性となる場合もある。
- アプリヘンジョンテスト(Apprehension test)
- サルカスサイン(Sulcus sign)
治療
- 軟部組織の機能不全を改善(マッスルインバランスの是正)
- 脊柱アライメント・肩甲上腕リズムの適正化
- 骨頭中心化(腱板賦活による不安定性改善+軟部組織伸張による拘縮改善)
・・など。
石灰性腱炎
石灰性腱炎は、以前は石灰沈着性滑膜包炎と呼ばれていた。
発症機序
夜間突然の激痛から始まることが多く、睡眠を妨げられ可動域制限をきたす。
石灰性腱炎は(滑液包と繋がっている)関節包に石灰分(カルシウムの結晶)が出来る。
これはカチカチに硬いわけではなくドロッとしている。なぜ、石灰分が出来るのかは不明(原因不明)。
特徴
特徴は以下の通り。
- 原因不明に石灰分が滑液包や腱鞘滑膜内に沈着し、発症する急性炎症。
- 肩・アキレス腱に多い。
- 中年以降に発症。
- 急に激痛が生じる(これが五十肩との違い)。
- 肩関節が全方向への関節可動域制限。
- 放置しても数日で自然治癒する。再発無し。
- 検査⇒X線で石灰分証明。
治療
- 石灰分の穿刺吸引(ただ、実際はやらない)
- 滑液包への注射(ステロイド)が著効(ただし、持続性は無い)
- NSAIDs
- 三角筋使用などで安静。
- 疼痛が除去されたら温熱療法・運動療法などにより二次的な機能障害を予防しつつ、自然治癒を促進。
上腕二頭筋長頭腱炎
発症機序
若年者・中高年者でも「Over use(腕の使い過ぎ)」、高齢者でも受傷機転なしに発症。
※野球肩の障害でもみられることがある。
解剖学的特徴
上腕二頭筋長頭は以下の点から機械的ストレスを受けやすい。
- 結節間溝内で90°走行を変える。
- 肩関節のあらゆる方向に際して円滑な動きが求められる。
症状
- 症状はピンポイントではなく「肩が痛い」と訴えるが、触診にて腱付着部へピンポイントに圧痛を認めることが多い。
- 日常生活動作では「ドアノブを回すような動き」などで痛む。
整形外科的テスト
- ヤーガソンテスト(肘屈曲・前腕回外位にさせ、抵抗を加える)
- スピードテスト (肘伸展・前腕回外位のまま上肢を挙上させる。この時に、抵抗を加える)
治療
- 上腕二頭筋のスパズム改善
- 脊柱アライメント・肩甲上腕関節の位置異常修
- 上記を施行した状況下での運動療法
- 疼痛誘発動作の一時的な抑制
・・など。
各部位疾患まとめ
以下の記事では、整形外科的疾患を部位一覧として記載している。
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