この記事では「胸郭出口症候群+上肢の絞扼神経障害」について解説していく。
胸郭出口症候群(総論)
胸郭出口症候群(TOS:Thoracic outlet syndrome)とは以下を指す。
絞扼神経障害とは:
絞扼神経神経障害(エントラップメント症候群)とは「神経に圧迫が起きることで、該当の神経を障害すること」をさす。
圧迫は体外からの他、神経の周囲組織の非行や腫瘤にもよる。特に、骨や腱などに囲まれた狭いところを通る神経は圧迫・絞扼を受けやすい。
絞扼障害を起こす部位は以下の3つに大別される。
斜角筋三角
前斜角筋と中斜角筋に囲まれた「斜角筋三角」を通過する際に絞扼。
=斜角筋症候群
肋鎖間隙
鎖骨と第一肋骨で囲まれた「肋鎖間隙」を通過する際に絞扼。
=肋鎖症候群
小胸筋胸壁間部
小胸筋の下(小胸筋胸壁間部)を通過して腋窩に達する際に絞扼。
=過外転症候群
胸郭出口症候群の分類・症状
分類
胸郭出口症候群の分類は以下の通り(ザックリとしたイメージ)。
- 牽引型⇒首が長いなで肩の20~30歳代女性
- 圧迫型⇒筋肉質の30歳代の男性
症状
胸郭出口症候群は、どの部位の通過障害が起きても症状は同じ(上肢全体に症状)。
- 患側上肢のしびれ
- 知覚障害
- 深部腱反射減弱 or 消失
- 筋力低下
- 鎖骨下動脈圧迫⇒冷感・チアノーゼ・橈骨動脈脈拍減弱
斜角筋症候群・肋鎖症候群・過外転症候群
ここから先は、胸郭出口症候群の各論として以下について記載していく。
- 斜角筋症候群
- 肋鎖症候群
- 過外転症候群
斜角筋症候群・肋鎖症候群・過外転症候群
ここから先は、胸郭出口症候群を3つの症候群に細分化して解説していく。
斜角筋症候群
斜角筋症候群は、「若いなで肩の女性」に多い(10代・20代から患者が出てくる)。
「斜角筋三角の狭窄が起こる原因」としては以下が挙げられる。
- 頚肋:第7頸椎横突起の過形成で第7頸椎から肋骨が出ている状態(奇形)
- 前・中斜角筋付着部同士が近い
- なで肩(斜角筋の過緊張が生じる)
- 整形外科的テスト→アドソンテスト
肋鎖症候群
肋鎖症候群は「胸を張り、後下方へ引き下げる姿勢(いわゆる「気を付けの姿勢」で肋鎖間隙は狭小化することで起こりやすい。
過外転症候群
過外転症候群は、上肢を挙上し過外転すると小胸筋が過緊張して(小胸筋胸壁部が狭小化して)症状が出現する。
日常生活では「電車のつり革を掴んだ姿勢」がイメージしやすい。
- 治療方法
・保存療法⇒小胸筋スパズムの除去・上肢を外転しないような工夫
・手術療法⇒小胸筋切除(小胸筋を切除しても、機能的にはあまり問題ないとのこと)
正中神経麻痺
正中神経麻痺の概要は以下になる。
絞扼を受けやすい部位
- 手関節(手根管)
- 円回内筋
- 浅指屈筋(健性起始部)
原因(手根管症候群の場合)
手根管症候群の原因は以下などが挙げられる。
- 特発性
- 長期血液透析
- 占拠病変(ガングリオンなど)
- 妊娠
- 膠原病(リウマチなど)の伴う腱鞘炎
- 内分泌疾患(甲状腺機能↓=粘液水腫など)
症状(手根管症候群の場合)
手根管症候群の症状は以下などが挙げらえる。
治療
- 保存療法(局所安静・服薬・ステロイド注射など)
- 無効の場合は手術療法
高位麻痺と低位麻痺(円回内筋症候群と手根管症候群)
高位麻痺
円回内筋症候群で生じる
祈祷肢位(小指・環指しか曲げられない)
低位麻痺
手根管症候群で生じる。
猿手(母指対立運動不能・母指球萎縮)が特徴。
低位麻痺ではファレンテスト陽性となる。
尺骨神経麻痺
尺骨神経麻痺の概要は以下になる。
手内在筋の多くが尺骨神経に支配されているため、正中神経は橈骨神経の障害に比べて巧緻動作が著しく障害される。
以下が者骨神経が支配する手内在筋。
短掌筋・背側骨間筋・掌側骨間筋・虫様筋(環指・小指)・短母指屈筋(尺側)・母指内転筋・小指外転筋・小指対立筋・短小指屈筋
※母指球を構成する他の筋『短母指外転筋・短母指屈筋(橈側)・母指対立筋』は正中神経支配。
絞扼を受けやすい部位
- 肘部管
- 尺骨神経管(Guyon管)
肘部管症候群とは:
尺骨神経は肘部管と呼ばれるトンネルを通るが、このトンネルが骨・靭帯・軟部組織などによって狭くなり、尺骨神経を締め付けて神経障害を起こす。
ギョン管症候群とは:
豆状骨と有鈎骨により境界される尺骨神経管(ギョン管)の部分で尺骨神経の絞扼が起こり、種々の症状を呈すもの。
原因
肘部管症候群:
・変形性肘関節症
・外反肘
ギョン管症候群:
・長時間にわたるハンドル把持などの小指球に圧迫が加わる動作
・占拠性病変(ガングリオンや腫瘤など)
・破格筋による圧迫
症状
症状・テスト:
・鷲手
・環指中央より尺側の感覚障害
・虫様筋・骨間筋・小指球の萎縮(クロスフィンガーテスト陽性)
・肘屈曲テスト(肘部管症候群で陽性)
肘部管症候群(高位麻痺)とギョン管症候群(低位麻痺)の鑑別:
手関節より中枢側で手背枝が分岐するため、ギョン管症候群では、手背の感覚障害がみられない(手掌の感覚障害のみ認められる)。
※肘部管症候群では手背・手掌の両方に感覚障害が認められる。
治療
- 外傷・骨折・腫瘤などによるものは手術、回復が見込めそうなものは保存療法。
- 回復が見込めそうと判断したものでも、一定期間(例えば3カ月ほど)様子を見て、回復しない・麻痺が進行している場合は手術。
高位麻痺と低位麻痺(肘部管症候群とギョン管症候群)
高位麻痺
肘管症候群で生じる。
低位麻痺
Guyon管症候群で生じる。
※Guyon管は「豆状骨と有鈎骨の間」のルート
高位麻痺(肘部管症候群)・低位麻痺(ギョン管症候群)ともに、以下の鷲手が特徴的。
低位麻痺(ギョン管症候群)では、ファレンテストでも「尺側を優位に掌屈させること」で陽性となる場合がある。
※上記により、橈骨手根関節の掌屈に連動して、手根間関節(豆状骨と有鈎骨)も動くため、絞扼が助長される場合がある。
ファレンテストについては以下を参照。
橈骨神経麻痺
橈骨神経麻痺の概要は以下になる。
※別名として以下などがある。
- ハネムーン症候群(男性が女性に腕枕をすることで橈骨神経が絞扼されて生じることが言葉の所以)
- サタデーナイト症候群(泥酔して腕を圧迫したまま眠って生じることが言葉の所以)
絞扼を受けやすい部位
- 橈骨神経溝
- 回外筋の入り口
また、「上肢挙上時に三頭筋裂孔部で橈骨神経が絞扼されること」により、の「後上腕皮神経領域」に知覚障害が生じることもある。
この点に関しては以下の記事で解説しているので合わせて観覧してみて欲しい。
症状
- 下垂手
- 手背~前腕橈側の知覚障害
治療
- 軽症なら予後良好
高位麻痺と低位麻痺
高位麻痺
下垂手(手関節を背屈できない)が特徴的。
※女性に腕枕をした際などに、上腕の橈骨神経が圧迫されて(一過性の)下垂手になったりする。
低位麻痺
回外筋症候群(=後骨間神経症候群)で生じる。
低位麻痺では手関節背屈運動は保たれる。
その他の絞扼
⇒『結滞動作で起こりやすい「外側前腕皮神経(筋皮神経由来)」領域の知覚障害!』
⇒『【イラスト解説】外側腋窩間隙(QLS:クアドリラテラルスペース)・内側腋窩隙・上腕三頭筋裂孔 の位置・構成組織』
上肢症状の鑑別
上肢症状は、上記以外にも「頸部」や「各部位」の問題でも起こり、それらは以下でまとめている。
※糖尿病ニューロパチーも臨床で遭遇しやすい疾患の一つ。
関連記事
以下も、この記事と同じく絞扼性神経障害について解説しているので合わせて観覧してみて欲しい。
⇒『【頭痛の原因】大後頭神経に対するアプローチ(頭半棘筋・僧帽筋を貫く)』
各部位疾患まとめ
以下の記事では、整形外科的疾患を部位一覧として記載している。
この記事と合わせて観覧してみて欲しい。