この記事では『チネル徴候(Tinal sign)』について解説していく。
※チネル徴候は、『ティネル徴候』『チネルサイン』『チネルテスト』などと記載されている書籍もあり。
記事の後半には(チネル徴候ではなく)『チネル様徴候』についても記載しているので合わせて観覧してみてほしい。
チネル徴候の方法・陽性所見・解釈
チネルテストの方法・陽性所見・解釈は以下になる
方法
末梢神経損傷が疑われる場合、麻痺神経経路に沿って圧迫や叩打をする。
陽性所見
その神経の知覚支配領域に放散する疼痛を訴える(これをチネル徴候と呼ぶ)。
解釈
チネル徴候陽性の解釈は以下の通り。
- 神経は切断されると、10〜20日で中枢側+末梢側ともにワーラー変性を起こす。
- その後、中枢側断端から複数の再生軸索が草の芽のように伸びてくる。
- その再生速度は1mm/日で、いくつが接合部の受容体に到達する。
- 軸索再生が始まっている神経先端は、まだ髄鞘に覆われていない。この先端に相当する部分を叩打したとき、その末梢神経の固有支配領域の放散痛を感じることをチネル徴候と呼ぶ。
- この徴候は再生軸索の具合を調べるのに有効。
チネル徴候の動画
チネルテスト(チネル徴候)の動画は以下なる。
末梢神経の構造と、その分類
ここでは補足として、チネル徴候を実施するために必要な基礎知識について記載していく。
末梢神経の構造
神経線維は、軸索(axon)と、それを取り巻く髄鞘(myelin shiath)、その外側のシュワン細胞(Schwann細胞)および、その鞘から構成される。
シュワン細胞は「軸索の機能と再生」にとって必要不可欠であり、軸索の再生の際に「新しい軸索は神経細胞の中枢端よりシュワン細胞によって作られた道を伝わって」伸びてくる。
損傷の程度分類
損傷の程度分類には「セドン分類(seddon分類)」が用いられるのが一般的。
セドン分類 | ワーラー変性 | 予後 | 特徴 |
一過性伝導障害 | - | 原因が除去されれば短期間で完全回復。 | 局所伝導障害+ |
軸索断裂 | + | 完全回復 or 不全回復 | 神経内膜保持 |
神経断裂 | + | 縫合しなければ回復不可。縫合しても不全回復 | 神経幹断裂 |
一過性伝導障害(Neurapraxia):
一時的な軸索伝導障害を指す。
※解剖学的には神経線維に何ら損傷が無いのに、機能的に伝導性が遮断されている状態。
軸索断裂(axonotmesis):
神経束の中で、何割かの軸索が断裂したもの。(アクソノトメシス)。
髄鞘は温存されいるので、再生可能(1日1-2mmの速度で再生し、5-6カ月で戻る)。
再生過程でチネル徴候がみられる。
神経断裂(neurotmesis):
神経束自体が断裂(ニューロトメシス)したもの。
チネル徴候とチネル様徴候の違い
チネル徴候は、前述したセドン分類における「軸索断裂(axonotmesis)」の際に起こるものであり、神経再生の目安になる。
一方で「チネル徴候のような所見」は軸索断だけで生じるわけではなく「圧迫」「絞扼」「阻血」「糖尿病」(あるいは、これらが複合するなど)でも生じることがある。
これらは「軸索再生」とは無関係であり、チネル徴候と区別して「チネル様徴候」と呼ばれることがある(区別せずにチネル徴候と呼ぶこともあるが)。
例えば整形外科疾患における「絞扼神経障害に対して、叩打して神経痛放散が生じるかを評価する」はチネル様徴候である(軸索損傷が起こっているわけではないので)。
関連記事
以下の記事では絞扼神経障害による(チネル徴候ではなく)『チネル様徴候』が陽性になりえる疾患も含めた「絞扼神経障害」について記載している。
合わせて観覧することで理解も深まると思う(以下の記事ではチネル徴候と記載しているかもしれないが、実際はチネル様徴候な点を注意しながら観覧してみてほしい)。