臨床経験を積んでいくと、「結滞動作時に、なぜか(肩周囲ではなく)前腕外側にも疼痛を訴える」というレアケースに出くわすことがある。
この症状は筋皮神経由来の疼痛(「外側前腕皮神経」領域の知覚障害)と言われており、この障害にフォーカスして記事を作成している。
結滞動作で前腕外側に疼痛を訴える症例
前述した「結滞動作で特異的に生じる前腕外側の知覚障害」には『烏口腕筋部における筋皮神経の絞扼障害』が関与していると言われている。
烏口腕筋の特徴
烏口腕筋の特徴は以下の通り。
- 烏口腕筋の作用は肩甲上腕関節の屈曲・内転。
- 支配神経は筋皮神経
- 烏口腕筋の筋腹部分を筋皮神経が貫通している。
機序:外側前腕皮神経の知覚障害
上記も含めて「結滞動作で前腕外側に知覚障害が生じる機序」は以下となる。
- 烏口腕筋に筋スパズムがある(←圧痛所見も確認しておく)
- 結滞動作(肩関節伸展・内旋動作)で烏口腕筋が伸張される。
- 烏口腕筋は肩関節伸展にて伸張されると、筋皮神経に伸長刺激が加わるとともに、烏口腕筋を貫通してそうこうしている筋皮神経が絞扼される(筋皮神経に伸長+圧迫刺激が加わる。特に烏口腕筋に筋スパズムがあると絞扼が強まりやすい)
- 筋皮神経由来の『外側前腕皮神経』の領域に知覚異常を訴える。
結滞動作は肩関節伸展・内転・内旋が必要であり「(伸展はともかくとして)内転は烏口腕筋を弛緩させる方向であるため、「そこまで伸張されないのでは?」「絞扼されないのでは?」と感じる方がいるかもしれない。
しかし伸展や内転可動域におけるの結滞動作寄与度には個人差があるため、伸展を強調した結滞動作を遂行する人が筋皮神経絞扼障害を起こしやすいといった特徴があるかもしれない。
また、(この記事とは関係ないが)結滞動作困難者の中には烏口腕筋のリリースをしてあげるだけで、可動域が改善する症例も存在する(理由は前述したとおり)。
治療方法
理学療法は、原因を特定できるまでが重要であり、原因さえ特定できれば、その原因を改善する手技は無数に存在する。
上記特徴「結滞動作時に前腕外側の知覚異常+烏口腕筋の筋スパズム・圧痛」が確認出来たら、「筋皮神経の圧迫・滑走障害の除去」を目的として、自身の得意な以下などの手法を行い即自的効果がみられるかを検証すれば良い。
- 等尺性収縮後弛緩(PIR)
- ストレッチング
- ストレイン・カウンターストレイン
- 神経系モビライゼーション
- マッサージ
・・・など。
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以下では、肩関節周囲の神経絞扼障害を扱っているので、合わせて観覧すると理解が深まると思う。