この記事では『拮抗抑制(Ia抑制・相反抑制)』と『自原抑制(Ib抑制)』について解説している。
この記事では「拮抗抑制=Ia抑制=相反抑制」や「自原抑制=Ib抑制」を、名称を変えながら記載しているので、上記用語が同義である点を理解しつつ読み進めてほしい。
拮抗抑制(Ia抑制・相反抑制)
拮抗抑制は「Ia抑制」「相反抑制」とも呼ばれ、以下の反応を指す。
拮抗抑制は『伸張反射』『腱反射』の機序を説明するときに用いられる。
腱反射の機序は以下の通り。
- 例えば、打腱器で上腕二頭筋腱を叩打する。
- 叩かれて(瞬間的に)凹んだ腱の分だけ、(瞬間的に)筋腹が引き伸ばされる。
- 「上腕二頭筋の筋腹」には筋紡錘が存在し、筋の伸長を感知する。
- 筋紡錘が伸張刺激を感知した結果、Ia求心性線維が興奮。
- Ia求心性線維は脊髄後角へ入り、主動筋(上腕二頭筋)には興奮性刺激を、拮抗筋(上腕三頭筋)には抑制性刺激を「α運動ニューロン(遠心性線維)により」出力する。
以下は『拮抗抑制(Ia抑制・相反抑制)』のイラストとなる。
以下は『拮抗抑制(Ia抑制・相反抑制)』を分かりやすく解説した動画となる。
自原抑制(Ib抑制)
自原抑制は「Ib抑制」とも呼ばれ、以下の反応が起こる。
自原抑制(Ib抑制)の機序は以下の通り。
- 例えば、上腕二頭筋腱に抵抗を加え等尺性収縮を起こす(力こぶを作る)。
- 筋腹が収縮する半面、腱は中央に引っ張られる(=腱に伸張力が加わる)
- 腱紡錘(=ゴルジ腱器官)が伸張力を感知した結果、Ib求心性線維が興奮。
- Ib求心性線維は脊髄後角へ入り、主動筋(上腕二頭筋)には抑制性刺激を、拮抗筋(上腕三頭筋)には興奮性刺激を「α運動ニューロン(遠心性線維)により」出力する。
以下は『Ib抑制(自原抑制)』のイラストとなる。
Ia抑制』と『Ib抑制』のイラスト+動画
拮抗抑制(Ia抑制・相反抑制)』と『Ib抑制(自原抑制)』を伸張反射と絡めて、まとめて表現したイラストは以下になる。
以下は膝蓋腱反射における伸張反射とIa抑制を「手書きしながら解説している動画」となる。
※前半はこの記事と関係ない映像でなのですっ飛ばし、伸張反射・Ia抑制は3分30秒から観覧してみて欲しい。
Ia抑制・Ib抑制を臨床で活かそう
ハッキリ言って「臨床で活用しない解剖学・生理学の知識」は無意味である。
そういった意味では、国家試験対策で学ぶ知識のうちで「卒業したら速攻で忘れてしまいそうだし無駄なことしてるなぁ」と思いながら覚える知識も多い。
理学療法士の友人で、再度(無意味な知識の詰め込みも含めて)勉強するのが嫌で、ダブルライセンスに二の足を踏む人も多い。
なのでIa抑制・Ib抑制に関しては、臨床での活用アイデアも提示して終わりにしようと思う。
Ia抑制の活用例
Ia抑制の活用例しては以下が挙げられる。
反動をつけギュっと筋をストレッチしてしまうと、その筋に伸張反射が加わってしまう。
すると(筋を伸長したいにもかかわらず)、筋が逆に緊張してしまい、十分なストレッチ効果が得られない。
「反動をつけずに、ゆっくりと筋を伸長していく」ということは、言い換えれば以下と同義となる。
速度に関しては、『等速度でストレッチングした際に伸張反射が発現しない角速度は5°/秒以下である』との文献があり、一つの目安になるかもしれない。
私の臨床ではもっと速くに伸張させてしまっているな~と考えさせられる数値ですが、皆さんはどうだろう?
Ib抑制の活用例
①ホールドリラックス
Ib抑制を考慮したストレッチングとして、PNFのホールドリラックスを紹介しておく。
順番は以下の通り。
- 療法士は、SLR位(下肢伸展挙上位)にて「ハムストリングスを伸長した状態」にて保持する。
- 患者に下肢を下すように指示しつつ、療法士はその力に抗することで等尺性収縮を起こす。
- この際、ハムストリングスの筋腹は中央に収束するように収縮している一方で、筋腱移行部(ゴルジ腱器官)には伸張力が加わっている。
- 等尺性収縮を解除しして脱力してもらう。
- すると、等尺性収縮によるIb抑制により、等尺性収縮前よりも筋緊張が落ちており、SLR角度が向上する。
イラストにすると以下になる。
「ホールドリラックス⇒ストレッチング」を数回繰り返すことで、効率よくSLR可動域が向上できる。
ただし、このまま終わってしまえば、再び元の状態に戻りやすいため、以下の運動をして終了する。
上記により(大腿直筋を主とした)大腿四頭筋を収縮させることで、得られた可動域での運動を学習させことが出来る。
また、この行為には「大腿四頭筋の収縮により、その拮抗筋であるハムストリングスの緊張が生じにくくなる」という相反神経抑制の作用も利用していることになる。
※「拮抗筋が弱化していると、主動作筋が過緊張になりやすい」というマッスルインバランスの考えを考慮していると言える。
②等尺性収縮による試験的治療
詳細は割愛するが、「構造的短縮が生じている筋」は等尺性収縮後弛緩(Ib抑制)を利用しても変化は起こりにくい。
等尺性収縮後弛緩で効果があるのは筋スパズム、つまりは「反射手筋短縮の生じている筋」である。
そして、現在の筋原性可動域制限が、筋の「構造的短縮」or「反射的短縮」のどちらであるかを鑑別するための試験的治療としても等尺性収縮(によるIb抑制)が利用される。
Ib抑制による神経生理学的作用を発現させたいだけなら、筋収縮の強度は弱くても構わない。一方で、筋の強度を強くすればIb抑制以外に「筋腱移行部のストレッチング」も加わるため、構造的短縮にも有効となってくる。
PNFのホールドリラックスは、以前は後者を狙った使い方が主流であったが、最近は異なってきている。
③筋腱移行部を押圧する
筋腱移行部を押圧することでゴルジ腱器官に張力が加わる。すると自原抑制として筋自体のリラックス効果が生じる。
従って、あん摩マッサージ指圧において「筋を緩める」ということを目的とした場合、筋腱移行部を治療対象とすることは「Ib抑制の観点からも」有益と言える。
この「筋腱移行部を押圧することにより(Ib抑制を利用して)過緊張を改善する」という考えは、あん摩マッサージ指圧の過去問としても出題されており具体的には以下となる。
アマシ25回
Ib抑制を利用して右腓腹筋の筋緊張を軽減させるのに適切な圧迫部位はどれか。
- 右前脛骨筋の筋腹部
- 右前脛骨筋の筋腱移行部
- 右腓腹筋の筋腹部
- 右腓腹筋の筋腱移行部
答え→4
アマシ28回
Ib抑制を利用し、最も効果的に筋を弛緩させる刺激部位はどれか。
- 筋腱移行部
- 最大筋腹部
- 関節裂隙部
- 拮抗筋起始部
答え→1
おまけ:活用動画
以下はIa抑制・Ib抑制(+半回抑制)について、臨床での活用方法も交えながら解説してくれている。
テンポの良いトークが繰り広げられているので、記憶にも定着しやすいのではと思う。