皆さんの中には、「柔道整復師=開業権がある」と思っている人、いないですか?
柔道整復養成校のホームページにも「柔道整復師の特徴は、開業権にある」と記載されていることもありますし。
たたし、この表現は「半分正解だが、半分不正解」になります。
最近制度が変わったので「柔道整復師≠開業権がある」です。
※後で訂正しますが、もっと厳密にいうと「柔道整復師≠保険請求による施術が出来る」です。
では、柔道整復師の開業権について、どの様な点が制度変更されたのか、解説していきたいと思います。
目次
柔道整復師の制度が変わった
柔道整復師の大きな特徴である「開業」に関して、2018年度より「開業の条件」が変わりました。
この変更により、「大幅にキャリアデザインの変更を余儀なくされる柔道整復師」も出始めてしまうほどにインパクト大でした。
そんな「厚生労働省保険局医療課から柔道整復師に宛てられた通達」が以下になります。
つまり今後、新たに開業する(施術管理者になる)場合は、以下の条件を満たしておく必要があるということです。
「3年間の実務経験」と「研修の受講」
今までは「柔道整復師になれば無条件で開業できる」って制度でした。
ですが今後は、「数年間の実務経験」を積んで、なおかつ「指定された研修」へ参加しなければ開業できないことになったのです。
それではココから、以下の点を深堀り解説していきます。
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実務経験って、どんな経験? 介護施設でのリハビリ業務も実務経験?
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「指定された研修」って、どんな研修?どのくらいの期間?
実務経験って、どんな経験?施設で乗りは業務もアリ?
「開業の条件」として『3年間の実務経験』が挙げられていました。
ですが、「3年間」っというのは2024年4月以降に届け出を出す場合です。
でもって2022年3月までに届け出を出す場合は「1年間」、
でもって2024年3月までに届け出を出す場合は「2年間」
の実務経験でOKです。
整形外科病院や介護施設での経験は「実務経験」に入る?
それでは、何をもって「実務経験」なのでしょう?
たとえば柔道整復師の職域は、接骨院(整骨院)勤務以外にも以下などが挙げられます。
- トレーナー業務
- 介護施設でのリハビリ業務
- 整形外科病院での施術
特に昨今は、病院や介護施設でリハビリ業務をする柔道整復師は増えているため、気になるところだと思います。
でもって、この点に関しては「H30年1月に厚生労働省保険局医療課から通達された資料」に以下の文言がりました。
柔道整復師の資格取得後の勤務先としては、施術所のほか、病院、診療所で働く者も一定数いる現状がある。診療報酬上も、運動器リハビリテーション料等の算定要件として、医師等の指示の下に、柔道整復師が訓練を行った場合には、所定の点数を算定できることとされている。これは、柔道整復そのものを行っているものではなく、医師が柔道整復を指導することもできないとの意見があった。
一方で、医療機関において、他の医療関係者と共同して、患者の回復のために尽くしている期間であり、医療人としての経験や倫理観、他の職種との連携等について習得することができる期間と考えることができる。
また一方で、施術管理者となるためには、施術所において、柔道整復療養費の請求や制度の正しい理解と経験を積むことも必要である。
これらを踏まえ、例えば実務経験の期間を3年とする場合、病院、診療所(指定保険医療機関)での従事期間については、柔道整復についての実務経験ではないが、診療報酬上、柔道整復師が従事した場合に算定できることとされている運動器リハビリテーション等に従事した場合に、最長2年まで(段階実施で実務経験の期間を2年とする間は最長1年まで)実務経験の期間として算入することを認め、残りの1年以上は施術所における実務経験を求めることについて、関係者の意見を踏まえ検討すべきである。
~「厚生労働省資料」より引用~
赤色の部分が、「病院・施設で働いた場合、臨床経験に該当するのか」の答えになりそうです。
ただ、最後が「検討すべきである」で終わっているのが気になりますね。
厚生労働省に問い合わせてみた
この「通達」は古い資料(H30年1月時のもの)なので、その後、方針が変更になっていないかどうか、厚生労働省に問い合わせてみました。
※2019日3月に問い合わせました。
その結果、前述した解釈でOKとのこと。
つまり、以下になります。
ただ、整形外科病院や施設を退職した後、すぐに開業できる訳ではないんですよね。
接骨院(整骨院)へ入り直して1年間実務経験積まなきゃいけない。
まぁ、整形外科病院や施設で働いても「柔道整復療養費の請求方法」は身に付きませんし、「柔道整復師が知っておくべき最新の制度情報」にも疎くなってるでしょうから、仕方がないかもしれません。。
でもって、以下の人達には、今回の改正は大誤算だと言えそうです。
今回の制度改正で、自身のキャリアプランについて色々考える人たちも増えてきそうです。
その一例として、リハビリ系の掲示板で、今回の制度変更と関連しそうな書き込みが掲載されていたので紹介しておきます。
現在30代後半、資格取得11年目の柔道整復師です。
元々、開業を考えて資格を取得しましたが、安定を求めて特養に機能訓練指導員として入職しました。
年収は380万ほどで、残業も無く仕事自体は自由で楽ですが、昇給は年間1000円、機能訓練に積極的な施設では無く、介護職と事務職も兼務でそのウェイトも多く、何をしにきたかわからなくなっています。
知識や技術も理学療法士には到底及ばず、勉強会へ色々と参加しようと思っていましたが、色々行って当たり外れのある勉強会へ行くよりも、理学療法士になりたいと思うようになりました。
完全に一人で出来ないでしょうが、一人で仕事が出来て待遇の良い訪問リハに興味があり、また柔道整復師よりも職域が広がるのも魅力的です。
ただ、理学療法士も飽和状態にあり、その内訪問リハもあまり待遇面が良くなくなるとも聞きます
整骨院開業の方も今年の四月の改定により、開業直前まで1年の整骨院の勤務、三年後には2年、四年後には3年の実務経験が必要になり、途中で勤務を辞めると、その実務経験がゼロになるという規定ができました。上記の理由もあり、年齢的に開業も学校へ行くのも最後のチャンスかと思い、どうしようか非常に迷っています。
現役の理学療法士の先生、また柔整から理学療法士になられた先生、こんな私にアドバイスをお願いします。
~『PT-OT-ST-NETより引用』~
厚生労働省の人に「開業できないわけではない」っと、何度も釘を刺された件
この記事に書かれている「開業できない」っという表現の補足になります。
今回、厚生労働省に問い合わせをした際に、以下の点を何度も強調した説明を受けました。
- 今回の制度変更は、柔道整復師の開業権を抑制するものではない。
- 柔道整復師という国家資格を保有した時点で、開業権は有している。
- 今後も、卒後すぐに開業することは可能である。
「卒業後すぐに開業できる」っという点をもう少し詳しく説明します。
今回の制度変更では「卒後直ぐに開業できなくなった」のではなく「卒後直ぐに施術管理者になることは出来なくなった」が正解。
なので、「卒後直ぐにでも開業は出来る」と。
ただ、「開業しても保険請求は出来ない(施術管理者になれてないから)だけだ」と。
あと、「自身が開業して、施術管理者を誰か雇えば開業が出来る」と。
「新卒者は開業できない」や「実務経験や研修を受けなければ開業を出来ない」っといった表現は間違いだと。
いずれにしても、この記事では「開業できない」っという表現で統一しているので、以下に修正して記事を読み進めて下さい。
厚生労働省に怒られるので。
念のため、以下の質問をしてみました。
私がこれから学校へ入学し、無事に国家試験をクリア、柔道整復師になれたとします。
資格を得てすぐに、だれも雇わずに一人で開業した場合、保険請求は可能ですか?
「不可能という解釈で大丈夫」っという答えが返ってきました。
「指定された研修」って、どんな研修?どのくらいの期間?
もう一つの「開業の条件」となる『指定された研修』について解説していきます。
この研修は全国で開催され、少なくとも全都道府県で最低でも年1回は開催される模様。
今は柔道整復師の数は膨れ上がっているので、毎年「開業権」を目指して研修を受ける人数も多い可能性があり、その人数に対応するためってことのようです。
気になる研修時間は12時間~2日程度での実施となっています。
数週間にも及ぶ長期研修という訳ではないので、ご安心ください。
この様な研修時間になった背景としては「受講者の負担を配慮したから」とのこと。
確かに、研修中に職場を休む可能性もありますし、金銭的・時間的な配慮をするのであれば2日以内が妥当かもしえません。
研修で学ぶ内容は以下の通り。
- 職業倫理
- 適切な施術所管理
- 適切な保険請求
- 安全な臨床
もう少し詳細な研修内容の内訳
各研修の内訳は以下になります。
職業倫理について
- 倫理
- 社会人・医療人としてのマナー
- 患者との接し方
- コンプライアンス(法令遵守)
適切な保険請求
- 保険請求できる施術の範囲
- 施術録の作成
- 支給申請書の作成
- 不正請求の事例
適切な施術所管理
- 医療事故・過誤の防止
- 事故発生時の対応
- 医療機関等との連携
- 広告の制限
安全な臨床
- 患者の状況の的確な把握・鑑別
- 柔道整復術の適用の判断及び的確な施術
- 患者への指導
- 勤務者への指導
なぜ制度変更がなされたのか
今回の制度変更に憤りを持っている柔道整復師も一定数は存在すると思います。
では、この様な制度変更がなされたのか。
それは以下につきつと思います。
現在、社会保障費が逼迫してしており、今後はさらにひっ迫することが予想されます。
そんな中で、柔道整復師の不正受給問題が何度もメディアを賑わせました。
※大阪の不正受給問題が有名ですが、ご存じない方は「柔道整復師 不正受給問題」などと検索してみて下さい。
そして、これら問題定義をすることで「柔道整復師の内部における自浄作用」を国は期待したのでしょうが、変われなかった。
じゃあ、この問題を起こさないようにするためには、どうすれば良いのだろうか。
そして、この問題解決のアイデアとして浮上したのが、今回の「制度変更」だった訳です。
施術管理者になるには、現在は柔道整復師の資格要件のみであり、柔道整復師の養成学校を卒業し柔道整復師となった後、直ちに施術管理者となり、施術所を開設することも可能となっている。
こうした中で、柔道整復療養費に係る不正請求事案が大きな問題となっているとともに、資格取得後に直ちに管理者となる例は、他の国家資格をみても稀であるとの指摘がある。
療養費の給付を行う保険者からも、柔道整復師学校、養成施設にて国家資格を取得し、卒業してすぐに施術所を開設した者が施術管理者となり、不適正な請求をする事例が散見され、施術管理者について一定期間以上の実務経験を有し、当該期間の施術内容・請求に問題がない場合に限る等の要件を設定するよう要望が出されている。
施術管理者の要件として、実務経験や研修の受講を要件とすることについては、受領委任の取扱いに当たり、何が保険請求の対象かの判断、施術録、支給申請書の記載の仕方など、制度の正しい理解を、受領委任を取扱っている施術所で実際に学ぶことができるとともに、一定の研修を受講することにより、一定の質の向上を図ることができると考えられる。
また、不正請求が多いと指摘されていることに鑑みれば、一定の社会人経験、医療人としての経験を積み、倫理観を身に付ける期間や研修を設けることは、不正対策や施術所の質の向上のために有効であると考えられる。
こうしたことから、新たに受領委任に係る施術管理者になる場合の要件に、実務経験と研修の受講を加えることとすべきである。
~厚生労働省資料より引用~
柔道整復師の中には、制度変更でメリットを感じている人も
この制度変更は、既に開業している柔道整復師にとってはメリットが大きいと思います。
その理由は以下の通り。
限られたパイ(ニーズ)しかない中で、接骨院・整骨院が乱立するということは、そのパイを奪い合う必要が出てくるわけです。
また、接骨院(整骨院)を利用するクライアントにとっても朗報です。
何故なら、安易な気持ちで開業する経験不足な新人柔道整復師による施術リスクを避けることが出来るので(特に、固定法・整復法は経験不足では危険です)。
国のほうも、要するに以下の2つを目的に制度変更に踏み切ったのではと思います。
- 経験不足な新人がドンドン開業するのではなく、しっかりと経験を積んだうえで開業してもらいたい
- 接骨院・整骨院が巷に乱立しているので、何とか抑制したい(それに伴い、パイの奪い合いを防ぐ⇒余裕のある接骨院運営⇒不正請求なども抑制したい)。
当然のことながら、まっとうに頑張っている柔道整復師の方々も、今回の制度改正はウェルカムでしょう。
この制度変更をきっかけに柔道整復師が良い方向へ変わってくれることを祈っているはずだと思われます。
柔道整復師の開業にまつわる制度変更:参考・引用文献
ここまで何度か引用してきた「厚生労働省資料」とは以下になります。
各種国家資格にまつわる制度変更は定期的に行われます。
この記事は、あくまで2019年に作成したものであり、もっと調べたいと思った際は、その時々における最新の情報を入手するよう心掛けて頂きたいと思います。
あん摩マッサージ指圧師は大丈夫?
柔道整復師の制度変更に関しては「卒後直ぐに開業させるのはいかがなものか?美容師とかでも3年は下積みがあるではないか?」みたいな声も反映されたようです。
では、あん摩マッサージ指圧師が「卒後すぐに開業する」のは良いのでしょうか?
この理屈で言うと、あん摩マッサージ指圧師の制度も変更しなくては整合性が取れないような気がします。
ただ、「圧倒的に柔道整復師の数が多い」「数が多いので、不正受給も目に留まりやすい」なども影響しているのかもしれません。
ただ、あん摩マッサージ指圧師の制度変更がなされてたとしても不思議はなさそうです。
終わりに
いかがだったでしょうか?
このブログでは、あん摩マッサージ指圧師に関連する情報を多く提供しています。
あん摩マッサージ指圧師に興味がある方は、他の記事も合わせて観覧頂き、情報収集してみて下さい。