この記事では「腰部疾患+下肢の絞扼神経障害」について解説していく。
目次
非特異的腰痛
腰部脊柱の退行性疾患のうち、腰部に起因するが、下肢に神経根や馬尾由来の症状を含まない病態。
あるいは重篤な脊椎疾患を有していない腰痛を総称して「非特異的腰痛」と呼ぶ。
特異的腰痛
特異的腰痛としては以下などが挙げあられる。
- 腫瘍性:骨腫瘍
- 感染性:化膿性脊椎炎・結核性脊椎炎
- 炎症性:強直性脊椎炎・リウマチ性脊椎炎
- 外傷性:骨折
腰痛鑑別のRed flag sign
セラピストがアプローチできる腰痛症かどうかを鑑別するためのRed flag signは以下になる。
- 20歳未満もしくは55歳以上
- 6週間以上続く腰痛
- 外傷(骨折の可能性)
- 発熱(炎症の可能性)
- 癌・ステロイド治療・HIV感染
- 体重減少・全身倦怠感
- 広範囲の神経症状
・・・など。
筋・筋膜性腰痛症
- 筋の慢性的な緊張や疲労が原因で起こる。
- 神経症状や画像検査での異常はない。
- 腰に疲労感・重だるさ。
- 腰を動かすと痛む(主に前屈動作で痛む←筋の伸張・収縮時痛)
- 脊柱起立筋・腰方形筋・靭帯などが関与。
- 画像所見・理学検査により、他の腰椎疾患を除外する。
理学検査
FFDなど
治療ポイント
- 非特異的腰痛であれば1か月以内に緩解するものが多いが、再発例も多いが、再発例も多い。
- 腰痛の原因が多様なので、慢性に移行するケースも良くある。
- 漫然と治療せず、常に危険な病態を見逃さないよう注意する。
治療
- 運動療法
- 薬物療法(NSAIDs・アセトアミノフェン・湿布薬)
- 物理療法(温熱療法や牽引療法など)
- 物理療法(硬膜外ブロック・神経根ブロック・仙骨ブロック)
椎間関節性腰痛
- 椎骨間の後方支持組織である椎間関節は、前方支持組織である椎間板変性の影響を受けやすい。椎間板変性により負担がかかり、椎間関節部を障害する。
- 椎間関節は脊髄神経後枝内側枝のの支配を受け、腰痛・臀部~大腿部への関連通を起こす。
- 一般的には下肢症状はない。
- 神経学的異常はない。
- 主に後屈動作で痛む。
- 理学検査により、他の腰椎疾患を除外する。
理学検査
※例えば右椎間関節に対してであれば、伸展・右側屈・右回旋(or左回旋)で軸圧を加える。
治療ポイント
- 腰部後屈により疼痛が増強する。
- 大腿外側への放散痛や、罹患椎間関節に一定した圧痛がある。
- 罹患椎間関節のレベルに一致した関連通パターンがある。
- 棘突起の圧痛や叩打痛が存在する。
治療
保存療法(徒手療法・運動療法)
腰部椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアの定義は以下になる。
椎間板ヘルニアの好発部位は「頸椎」と「腰椎」である。
頸椎・腰椎椎間板ヘルニアにおける症状の違い
脊髄はL1付近で終わり、それより尾側は「馬尾神経(脊髄神経根の束=末梢神経)」が通っている。
従って以下のように整理する。
- 頸部のヘルニアでは「脊髄(中枢神経)」が圧迫される場合がある。その際は中枢神経障害が生じる。
- 腰部のヘルニアでは「馬尾神経(末梢神経)」が圧迫されるため、末梢神経障害しか生じない。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアの特徴は以下になる。
好発年齢
20~40代に多い(頸椎ヘルニアに比べ、若い人に多い)
好発部位
L4/5(L4神経根)・L5/S1(L5神経根)で90%を占める。
症状
- 急性腰痛と共に発症することもある。
- ただし、腰痛は「無いor軽微」というケースも多く、下肢症状だけのこともある。
- 椎間板ヘルニアの定義は「(ヘルニアの画像所見+)神経症状を伴っていること」である(腰部・頚部の疼痛有無は関係ない)。
急性腰痛を有しているヘルニアでは以下の特徴がみられ、これはギックリ腰(腰椎急性捻挫)と共通の症状である。
高位診断
この診断は側方ヘルニア(神経根圧迫症状)で使える。
Hoppenfeld(ホッペンフェルド)の文献が有名で、具体的には以下の通り。
※ほとんど「L4/L5」「L5/S1」のヘルニアだが、「L3/4」もゼロではないため掲載されている。
- L4/L5間のヘルニア⇒母趾伸展力の低下・アキレス腱反射正常
- L5/S1間のヘルニア⇒母趾屈曲力の低下・アキレス腱反射減弱化~消失
疼痛誘発テスト
腰椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テストは以下になる。
- 下肢伸展挙上試験(SLRテスト:Straight leg raising test)⇒正常では90°
- ラセーグテスト(下肢90°屈曲位から膝関節伸展):坐骨神経(L4-S3)の圧迫
- 大腿神経伸展テスト:大腿神経(L1-L4)の圧迫
Valleirの圧痛点:
坐骨神経が大坐骨切痕から梨状筋下孔を通過し末梢に出てくる部位を押した時、圧痛を認めることがあり、これを「Valleirの圧痛点」と呼ぶ。
治療
膀胱直腸障害では緊急手術。
それ以外では保存療法⇒手術療法の順。
保存療法
・物理療法(ホットパック・牽引療法・マッサージなど)
・運動療法
・内服(NSAIDs+筋弛緩剤)+湿布
↓
・リリカ(末梢神経修復薬)が処方されることも。
リリカは副作用が強いため、日本では帯状疱疹など限定した疾患にのみ処方される傾向にある。副作用は多様だが、特に注意を要すのは「眠気」「ふらつき」であり、高齢者は転倒のリスクあり。従って、効果的とされる処方量(150×2回)を投与するまでに、副作用の反応を観察しつつ段階的に投与されるのが一般的。副作用が軽微であれば、2-3か月の服用で痺れ感が大幅に改善されることもある。リリカは「突出したヘルニアを低減させる効果」があるわけではなく、「突出したヘルニアによって微細損傷を受けた神経の修復」であり、効果が出るまでに一定期間を要す。従って、通常の鎮痛剤と併用処方されることが多い。
手術療法
ヘルニアを除去する手術を行う。
近年は「内視鏡によるレーザー照射(椎間板はタンパク質なのでレーザーで焼くことが可能)」が行われることもある。
日本に内視鏡手術が導入された当初は「照射が不十分で、ヘルニアが再発するケース」が多発したが、最近では大幅に改善されている。
内視鏡手術のメリットデメリットは以下の通り。
・侵襲刺激を最小限に出来る(なので入院期間・安静期間が短い)。
・内視鏡を扱えるレベルの医師が限られている。
鑑別が必要な強直性脊髄炎
若年者で、全身のこわばりや疲労感(特に朝)、頑なに繰り返す腰痛や原因不明の手足症状がある場合には、強直性脊椎炎も疑う(Red flags signに準ずる)。
強直性脊椎炎の特徴は以下の通り。
- 若年者(特に男性)
- 腰痛・仙腸関節痛や臀部痛(坐骨神経痛)や胸部痛(肋間神経痛)、時に股・膝・足関節などの痛みや腫れで発症。
- 一部の重症例では骨性の癒着、すなわち強直に至る。
自己免疫疾患・若年男性に多い・日本では少数。
強直が起きていない段階では、誤診が起きやすい。
変形性腰椎症
変形性脊椎症は「椎間板変性によりクッション性が低下し、活動により椎間関節への刺激増大⇒骨棘形成」という機序をたどる。
好発部位
L4/5・L5/S1
発症年齢
- 初期は40歳代~。
- 進行期は高齢者~。骨棘自体による症状が顕著で、下肢の神経症状を認める場合あり。進行すると間欠性跛行が生じることも。この間欠性跛行は、腰部脊柱管狭窄症を意味する(腰部脊柱管狭窄症の項目を参照)。
診断
- 単純エックス線で骨棘証明。
- 神経症状認(反射↓・筋力↓・知覚↓)めるならMRIも。
治療
「腰部椎間板ヘルニア」の項目を参照
※長年の関節刺激の蓄積で徐々に悪化していくので、支持性を高めるためにも適切な筋力トレーニングは重要となってくる。
脊椎分離症(+分離すべり症)
脊椎分離症とは「脊椎椎弓の上下関節突起間の骨連結」が絶たれた状態を指す。
分離すべり症とは、上記に加えて「椎体が腹側に滑っているもの」を指す。
好発部位
L5が90%。
残りはL4がほとんど。
一方で、分離滑り症は「S1に対してL5が腹側へ滑ること」が多い。
受傷機転
過度なスポーツを行う青少年期に腰痛として発症することが多いことから、疲労骨折ではないかと考えられている。
「無症状で、ふとしたタイミングで成人になって気づくこと」もあり、受傷機転が不明(いつ発症したか不明)であることもある。
診断
X線検査で斜位撮影を行う。分離症では「スコッチテリアの首輪」として現れる。
治療
新鮮例
新鮮例とみなしたら、スポーツ6カ月中止、コルセット着用。
ただし、四肢と異なり(ギプスなどによる)完全固定は困難であり、上記対応でも骨癒合しないケースあり。
陳旧例
陳旧例は癒合の可能性なし。運動療法(腹筋・背筋の筋トレ)⇒神経症状の程度によっては手術のケースあり(分離すべり症で膀胱直腸障害・日常生活に著しい制限をきたす場合など)
脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症(LCS:lumbar canal stenosis)は以下を指す。
脊柱管が先天性・後天性の原因で狭窄し、神経圧迫症状を呈し、間欠性跛行が現れるもの
間欠性跛行とは
間欠性跛行は脊柱管狭窄症に特徴的な症状であり以下を指す。
間欠性跛行は下肢動脈血流低下(動脈硬化性閉塞症・バージャー病)でも生じる。
これら2つの間欠性跛行の違いは以下の通り。
脊柱管狭窄症 →座位で休憩することで症状改善(脊柱管・椎間孔の拡大による)
下肢動脈血流低下→立ち止まって休憩するだけでも症状改善(血流改善による)
また、下肢動脈血流低下は自転車移動でも症状が誘発される(血流低下による)が、脊柱管狭窄症では誘発されない(腰椎後弯で脊柱管狭窄が生じないから)という違いもあるので、この点も含めて問診することで、鑑別の一助となる。
下肢血流低下では足背動脈が触知できなくなるケースも多いので、間欠性跛行の人が来院したら「即、LCSと決めつる」のではなく、足背動脈を触知する習慣をつけること。
原因
変形性腰椎症によるものが多い(前述した変形性腰椎症を参照)。
性差
男性に多い(女性に比べて活動性が高く、腰部負担が大きいことが考えられる)
※女性に多いのは変性すべり症
症状
腰痛・下肢神経症状・間欠性跛行
診断
理学所見
問診:症状の、姿勢による変化や寛解。
身体所見:体幹の可動域制限、後屈制限とそれに伴うか下肢痛・痺れ。
神経学的所見:SLR・FNSによる神経根刺激症状は陰性が多い。
画像所見
MRI
治療
保存療法
・血管拡張剤(目的から考えても即効性が期待できるものではなく効果は微妙だが、飲まされている人多い)
・コルセット・杖・シルバーカー
・その他、物理療法・筋力増強訓練は、他の脊柱疾患と同様。
手術療法
除圧術+椎体固定術
大腿神経・上臀皮神経・中臀皮神経の絞扼
大腰筋・腸骨筋間での大腿神経の絞扼⇒FNSテスト陽性
上臀皮神経・中臀皮神経の絞扼⇒リンク
梨状筋症候群
梨状筋症候群は以下を指す。
大坐骨切痕と仙結節靭帯・仙棘靭帯によって縁どられた大坐骨孔は、梨状筋によって梨状筋上孔・梨状筋下孔に分かれる。
各孔からは以下が通る。
・梨状筋上孔⇒上臀神経・上臀動静脈
・梨状筋上孔⇒下臀神経・坐骨神経・後大腿皮神経・下臀動静脈・内深部動静脈
特徴
梨状筋の特徴は以下の通り(ザックリとしたイメージ)。
- 臀部の圧痛・放散痛、および下肢の内旋で増悪する。
- 下腿三頭筋の筋力低下(MMT3など)。
- 総腓骨神経領域の障害も訴える場合も多い。例えば、問診すると「腰は悪くない、お尻が凝って、歩き続けたら下腿外側や足部外側がだるかったり痺れが起こる」など。
整形外科的テスト
K・ボンネットテスト
治療
梨状筋ストレッチングなど。
総腓骨神経麻痺
総腓骨神経麻痺の概要は以下になる。
絞扼を受けやすい部位
- 腓骨頭部後面(総腓骨神経は腓骨頭後面を走行する)
膝外側からの物理的圧迫によるものが最も多い。
例えば、ギプス固定、睡眠時、習慣的な足組み、ガングリオンなど。
症状
- 痺れ
- 下垂足(=足関節の背屈運動困難)
治療
- 保存療法
- 重症例では手術
脛骨神経麻痺(足根管症候群)
脛骨神経麻痺(足根管症候群)の概要は以下になる。
足根管内における各筋の位置関係は以下の通り(腹側から順に記載)。
絞扼を受けやすい部位
- 足根管
ガングリオンや腫瘤による占拠性病変が多い。
症状
- 足底の痺れ・疼痛
- 足根管の圧痛
- 立位や歩行で症状が悪化する。
※運動麻痺は顕著ではない
治療
- 保存療法⇒内果の下方(+後方)付近をほぐす⇒実際の足根症候群へリンク
- 占拠性病変が明らかな場合は手術療法
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⇒『大後頭神経⇒頭半棘筋を貫く』
各部位疾患まとめ
以下の記事では、整形外科的疾患を部位一覧として記載している。
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