肩関節の自動運動時に「何をしてもココが痛い」と三角筋中部〜前線維(の遠位部)付近の疼痛を訴える患者がいる。
この記事では、そんな症状の一つの原因としての「腋窩神経前枝の滑走障害」について記載していく。
腋窩神経前枝とは
腋窩神経の本幹は「前枝」と後枝」に分かれ、以下の様に走行している。
前枝
三角筋三角筋内面のほぼ中央を前方に向かって横走し、その途中で中部への筋枝を分岐し、残りの枝は前部への枝を扇状に出している。
後枝
後枝は小円筋、三角筋後部への筋枝および上外側上腕皮神経に分かれる。
腋窩神経前枝の滑走障害
腋窩神経の前枝はQLSを通過後に外方から前方へ回り込む枝を有する。
この横走は、三角筋中部線維⇒前部線維の深部で(三角筋の深部で、上腕骨に付着するような形で)なされるのだが、ここで滑走障害を起こしやすい。
そして、この横走時に「神経及び周囲軟部組織の滑走障害」が起こっていることでも、三角筋中部(~前部の筋間付近)に運動時痛が生じることがある(三角筋収縮を伴う様々な動作で疼痛が生じることがある)。
三角筋外・前側遠位部疼痛に対するアプローチ
ここでは三角筋前・外側遠位部痛についてのアプローチを記載していく。
鑑別
肩甲上腕関節及びその周囲組織の障害を有している一般例とは以下のように鑑別すると良い。
- 腋窩神経前枝が原因の疼痛は肩関節より若干遠位(+外・前側)に症状を訴える。
- 触診でも圧痛所見が認められる(関連記事で紹介している「QLS領域の障害」では圧痛所見は無い)。
※特に訴える部位は特徴的なので、ぜひ覚えておこう。
治療方法
治療方法とポイントとしては以下の通り。
- 腋窩神経前枝の滑走障害を改善していく。
- 三角筋中部・前部線維の深部を走行しているので「表層組織の滑走障害アプローチ」と比べて圧は強めに実施する。
触診+治療方法
この滑走障害の改善方法は以下の通り。
- 肩関節90°外転位でリラックスできる環境を作って三角筋を弛緩させる(テーブルの上に肘を置くなど。リラックスできているのであれば上肢下垂位で触診してもOK)。
- 肩峰から3~4横指遠位を触診し、上腕長軸方向に近位⇔遠位方向へ横断摩擦するように触診する。
- すると外側から前方へ走行しているコロッとした組織を触れることが出来き、圧痛も感じられる(三角筋前部・中部線維の筋間部ラインで触診できることが多い)ので確認。
- これが腋窩神経前枝であり、これに摩擦刺激を加えることで滑走性を高めてあげて、効果判定をする(治療前の疼痛誘発動作を再度実施してみて、症状が改善・消失、ROM改善が認められたら、腋窩神経前枝が原因であったと判断)。
改善がみられない場合
改善がみられない場合は以下を再検証する。
- 滑走障害が生じている触診部位が異なる
- 滑走障害の改善が不十分
- そもそも腋窩神経前枝の滑走障害ではない可能性
症例報告
念のため症例を記載しておく。
- 70代女性で主訴は「手を挙げると、両肩の外側が痛む」とのこと。
- 腰部の生理的前弯は保てているものの、上部〜肘部胸椎にかけて大きく後弯、前方頭位している特徴的なアライメントの女性であった。
- 上記アライメントなため、肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の協調性も障害されていたが、実際の上肢挙上自動運動では左右とも150°可能であった。
- 本人の話を深堀していくと「手を挙げることはできるけど、最後(最終域)で方が痛む」とのこと。
- そして、その部位を確認したところ、左右ともに「三角筋前部・中部の筋間溝(の遠位部)」という、肩甲上腕関節よりはもかなり遠位部を示していた(○○関節が痛いと訴えていても、患者さんは素人なので、実際は違ったところが疼痛部位なことも多い)。
- そのため「腋窩神経前枝の滑走障害」との仮説を立てて一側上肢へアプローチしたところ、上肢挙上最終域での疼痛(ERP:End Range Pain)が消失した。
※反対側は、同アプローチにて大幅軽減したが残りは取り切れず、QLSにおける滑走性を向上することで消失した。
※割と特徴的な疼痛部位を示すので、もし同じような患者と出会った際は試してみてほしい。
※もちろん、滑走障害が生じた原因、関節可動域のさらなる向上を目指した場合は、脊柱アライメントも含めて介入することは言うまでもない。今回は「本人の主訴に対する即自的な効果」という点にフォーカスした紹介となる。
関連記事
腋窩神経はQLSで絞扼・滑走障害が起こることもあり、この点に関しては以下の記事で解説している。