この記事では「腹部の見立て」について解説していく。
臨床において「腹部臓器の位置関係」を把握しておくことは、内臓の機能異常を推論するうえで重要となってくる。
一方で、東洋医学では「肝・心・脾・肺・腎」といった(「西洋医学における臓器」とは少し違った解釈を持つモノ)も存在し、これも国試で必発なため覚えておく必要がある(臨床で使うかどうかは、その人次第)。
この記事は、そんな「西洋・東洋における臓(器)の位置関係を整理」を目的としている。
腹部臓器の位置関係については、実際の国家試験問題も添付しているので、記憶に定着しやすいと思うので、ぜひ参考にしてみてほしい。
西洋医学における身体部位の見立て(腹診)
心窩部痛
食道炎
胃腸(胃炎・消化性潰瘍、胃癌)
膵臓(急性膵炎・慢性膵炎・膵臓癌)
急性心筋梗塞
単純性イレウス
右季肋部痛
胆嚢・胆管(胆石による胆嚢炎・胆管炎、胆嚢癌・胆管癌)
肝臓(急性肝炎・原発性肝癌・肝腫瘍)
横隔膜(横隔膜下膿瘍・横隔膜炎)
左季肋部
大動脈破裂
大腸穿孔
右季肋部と同様(⇒胃潰瘍・急性膵炎・単純性イレウス)
下腹部痛
急性腸炎・腸重積・潰瘍性大腸炎・急性虫垂炎後期・S状結腸軸捻転・大腸憩室炎・卵巣嚢腫茎捻転・子宮外妊娠・癌(大腸・不妊科・泌尿器科系)・睾丸(炎症・腫瘍・捻転)
右下腹部痛
急性虫垂炎・回盲部重積
クローン病
腸型ベーチェット病
メッケル憩室炎
単純性潰瘍
大腸憩室症
右卵巣脳腫茎捻転
右鼡径・大腿ヘルニア
右腸腰筋膿瘍
左下腹部
大腸炎(潰瘍性・虚血性)
腸間膜脂肪織炎
S状結腸捻転
大腸穿孔
大腸憩室症
単純性イレウス
左鼡径・大腿ヘルニア
左腸腰筋膿瘍
腹部全体の痛み
汎発性腹膜炎・消化管穿孔・絞扼性イレウス・腸間膜動脈血栓症・腹部大動脈破裂
国家試験問題
ここから先は、あん摩マッサージ指圧国家資格、鍼灸国家試験で実際に出題された問題を記載していく。
大体は、西洋医学における各臓器の部位が分かれば答えらえる(あるいは答えを導くためのヒントになりえる)問題が多々ある。
アマシ26回
右季肋部痛をきたすのはどれか
- 急性膵炎
- 心筋梗塞
- 急性虫垂炎
- 総胆管結石
答え→4
1:急性膵炎は心窩部から上腹部。2:心筋梗塞は心窩部。3:急性虫垂炎は右下腹部。4:総胆管結石・胆石症などは右季肋部。
鍼灸25回
臓器と触診部位の組合せで正しいのはどれか
- 肝臓一右季肋部
- 腎臓一心窩部
- 虫垂一左下腹部
- 膵臓一右側腹部
答え→1
2:腎臓は右側腹部、3:虫垂は右腸骨窩部、4:膵臓は心窩部がそれぞれ触診部位としては正しい組み合わせとなる。
アマシ16回
疾患と痛みの放散部位との組合せで正しいのはどれか
- 胆石一左上肢
- 胃潰瘍- 鼡径部
- 急性膵炎一左肩
- 尿管結石一心窩部
答え→3
3:急性膵炎では心窩部、左季肋部に激痛が生じ、左背部、左肩に痛みが放散する。
1:胆石や急性胆のう炎では右季肋部に疵痛や持続性の腹痛が生じ、右背部、右肩に放散痛がみられるが、左上肢に放散することはない。左上肢への放散痛がみられるものには狭心症や心筋梗塞がある。
2:胃潰瘍や十二指腸潰瘍では心窩部に疼痛が生じ、痛みは鼡径部には放散しない。
鼡径部への放散痛は4:尿管結石などでみられる。
アマシ26回
虫垂炎の触診で圧痛を認めるのはどれか
- 右季肋部
- 左季肋部
- 右下腹部
- 左側腹部
答え→3
虫垂炎で圧痛が認められるのは、3:右下腹部(腸骨窩部)が正しい。
アマシ21回
十二指腸潰瘍の腹痛の特徴はどれか
- 食後の心窩部痛
- 食後の右季肋部痛
- 空腹時の左季肋部痛
- 空腹時の心窩部痛
答え→1
1:空腹時の心窩部痛は、十二指腸潰瘍の腹痛の特徴である。
また、その痛みは食事摂取により軽快する傾向がある。
空腹時では胃内に食物がないため、胃酸濃度の上昇により痛みが誘発されるが、食事摂取により濃度が緩和されるので痛みが軽快すると考えられている。
アマシ18回
胆嚢炎の症状で誤っているのはどれか
- 腹痛
- 発熱
- 黄疸
- 頻尿
答え→4
1:胆嚢炎では右季肋部~心窩部の疼痛、すなわち腹痛が起こる。
2:発熱、悪心、嘔吐などがみられる。
3:黄疸を生じる。
4:頻尿は起こらないので誤っている。
鍼灸14回
クールボアジェ徴候がみられるのはどれか
- 食道癌
- 胃癌
- 肝細胞癌
- 膵頭部癌
答え→4
クールボアジェ徴候とは、黄疸とともに右季肋部に球状の腫大した胆嚢が触知されるものをいい、総胆管末端部の閉塞で生じる。
その原因は総胆管癌や4:膵頭部癌などの悪性腫瘍によることが多い。
鍼灸14回
40歳の肥満女性。右季肋部の疝痛と発熱、黄疸が認められた。最も考えられるのはどれか
- 膵尾部癌
- 総胆管結石
- 腎結石
- 肝硬変
答え→2
総胆管内で胆汁からつくられた胆石や胆のう内でつくられた胆石が移動して、総胆管を閉塞することで生じる。
- 胆石形成の危険因子には高齢、肥満などがあり、女性に多くみられる傾向がある。
- 症状としては、胆石発作と呼ばれる上腹部から右季肋部の発作性の周期的激痛(疝痛)がみられ、悪心・嘔吐が生じる。
- 疼痛は右肩に放散する傾向がある。
- 悪寒・戦慄を伴った発熱や黄疸を伴う。
問診による腹部疾患の鑑別フローチャート
問診情報により「以下などの疾患を有している可能性」を推察できる。
東洋医学における身体部位の見立て(腹診について)
東洋医学においては、以下のように「臍を中心に上下左右の腹診」で評価し、東洋医学における臓器の位置関係とは異なる点に注意が必要。
- 臍の左⇒肝病
- 臍の上⇒心病
- 臍 ⇒脾病
- 臍の下⇒腎病
- 臍の右⇒肺病
腹診(傷寒論系)
もう少し腹診を深堀した「傷寒論系」は以下の通り。
症状 | 特徴 |
心下痞鞭 (しんげひこう) |
心・心包の病変に多い。 心窩部の自覚的なつかえを心下痞、他覚的に硬いものを心下鞭、ともにあるものを心下痞鞭という。 |
胸脇苦満 (胸脇脹満) |
肝・胆の病変に多い。 季肋下部に苦満感があり、押すと痛いもの。 |
小腹不仁 |
腎の病変に多い。 下腹部(臍下)に力がなく、ふわふわして押すと凹みやすい。 ※知覚鈍麻がある。 |
少腹急結 |
瘀血の腹証。 下腹部(特に左)に抵抗感や硬結があるもの。 |
裏急 (腹裏拘急) |
虚労でみられる。 腹直筋の異常なつっぱることで、腹裏のひきつる症状。 |
おまけ:脈診における臓器配列
おまけとして「脈診における臓器配列」についても記載しておく。
部位 | 浮 | 沈 | 部位 | 浮 | 沈 | ||
左 | 寸 | 小腸 | 心 | 右 | 寸 | 大腸 | 肺 |
関 | 胆 | 肝 | 関 | 胃 | 脾 | ||
尺 | 膀胱 | 腎 | 尺 | 三焦 | 心包 |
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