この記事では「頸部疾患+頸肩腕症候群」について記載していく。
Rad flag sign
頚肩腕疾患で注意すべきレッドフラッグサインは以下となる。
- 外傷・腫瘍の既往
- 体重減少・筋萎縮
- 頚を支えていられないほどの麻痺症状
- 夜間痛
- 脊髄刺激症状
- 椎体圧痛
- 結核・関節リウマチ・炎症性関節炎の既往
- 自発痛(炎症)
・・・など
変形性頚椎症
変形性頚椎症(頚椎症・頚椎症性神経根症・頚椎症性脊髄症)の特徴は以下の通り。
病態
- 退行変性に基づく椎体周辺の骨増殖と椎間腔の狭小化を生じ、頸神経や脊髄が圧迫されて症状を呈する。
- 脊柱の支持性低下により頸部痛が出現する。
発症年齢
初期:
40代~。ただし、肩こり・頚部痛などで外来受診し、たまたま画像所見で骨棘が発見されたから病名が付くなどもあり得る(骨棘が認められるが、症状の原因が骨棘とは限らない)
進行期:
60代~。骨棘が原因による神経症状を呈するケースあり(骨棘自体が症状の原因)。
症状
- 可動域制限・姿勢異常
- 神経根症状(C7・C6・C8・C5の順に多い)
- MMT低下・知覚異常
- 腱反射(神経根症状は減弱・消失)
脊髄症状の場合:
手・体幹・下肢に及ぶ痺れ・巧緻運動障害・下肢痙性麻痺・上下肢筋力低下・膀胱直腸障害。
神経症状の場合:
上肢への放散痛・限局性の感覚鈍麻・筋力低下・筋萎縮。
整形外科的テスト
診断
- 単純エックス線で骨棘証明。
- 神経症状認めるならMRIも。
ここから先は、頚椎症・神経根症・脊髄症について記載していく。
頚椎症
頚椎症は「変形性頚椎症の中で上肢症状を伴わず、頸部痛のみを呈するもの」を指す。
- 神経学的所見は無い。
- 疼痛による可動域制限がある。
- 画像所見はみられる。
頚椎症性神経根症
頚椎症性神経根症は「変形性頚椎症の中で、頸部痛および上肢症状を呈するもの」を指す。
- 頸部痛で発症することが多く、痛みは肩甲骨周辺まで訴えることがある。
- 上肢症状は片側性が多い。
頚椎症性脊髄症
頚椎症性脊髄症は「変形性頚椎症の中で、脊髄症状を呈するもの」を指す。
頸部痛を伴わなわず、痺れが初発、両側性が多い。
症状
- 腱反射亢進・痙性歩行・筋萎縮
- 病的反射(ホフマン、トレムナー、ワルテンベルグ、バビンスキー、膝・足クローヌスなど)亢進
- 巧緻運動障害・下肢症状
- 頚椎症の高位診断と数字的にずれが生じる。
脊髄症状とは:
手・体幹・下肢に及ぶ痺れ・巧緻運動障害・下肢痙性麻痺・上下肢筋力低下・膀胱直腸障害。
神経症状とは:
上肢への放散痛・限局性の感覚鈍麻・筋力低下・筋萎縮。
頸椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアの定義は以下になる。
椎間板ヘルニアの好発部位は「頸椎」と「腰椎」である。
頸椎・腰椎椎間板ヘルニアにおける症状の違い
脊髄はL1付近で終わり、それより尾側は「馬尾神経(脊髄神経根の束=末梢神経)」が通っている。
従って以下のように整理する。
- 頸部のヘルニアでは「脊髄(中枢神経)」が圧迫される場合がある。その際は中枢神経障害が生じる。
- 腰部のヘルニアでは「馬尾神経(末梢神経)」が圧迫されるため、末梢神経障害しか生じない。
頸椎椎間板ヘルニア
頸椎椎間板ヘルニアの特徴は以下になる。
好発年齢
40歳代に多い(⇔腰椎椎間板ヘルニアは若年者に多い)
好発部位
C5/6> C6/7> C4/5の順に多い。
症状
後方ヘルニアでは脊髄圧迫症状が生じる(頸椎で特徴的)。
側方ヘルニアでは神経根圧迫症状が生じる。
高位診断
この診断は側方ヘルニア(神経根圧迫症状)で使える。
Hoppenfeld(ホッペンフェルド)の文献が有名で、具体的には以下の通り。
以下は、頸椎と神経根(C5~T1)の位置関係を示している。
疼痛誘発テスト
疼痛誘発テストは「側方ヘルニアにより神経根が圧迫されている場合」に有効。
頸椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テストは以下になる。
- ジャクソンテスト(Spurling test)
- スパーリングテスト(Jackson's test)
治療
- 膀胱直腸障害では緊急手術。
- それ以外では保存療法⇒手術療法の順。
保存療法
・物理療法(ホットパック・牽引療法・マッサージなど)
・徒手療法
・運動療法
・内服(NSAIDs+筋弛緩剤)+湿布
↓
・リリカ(末梢神経修復薬)が処方されることも。
リリカは副作用が強いため、日本では帯状疱疹など限定した疾患にのみ処方される傾向にある。副作用は多様だが、特に注意を要すのは「眠気」「ふらつき」であり、高齢者は転倒のリスクあり。従って、効果的とされる処方量(150×2回)を投与するまでに、副作用の反応を観察しつつ段階的に投与されるのが一般的。副作用が軽微であれば、2-3か月の服用で痺れ感が大幅に改善されることもある。リリカは「突出したヘルニアを低減させる効果」があるわけではなく、「突出したヘルニアによって微細損傷を受けた神経の修復」であり、効果が出るまでに一定期間を要す。従って、通常の鎮痛剤と併用処方されることが多い。
手術療法
ヘルニアを除去する手術を行う。
近年は「内視鏡によるレーザー照射(椎間板はタンパク質なのでレーザーで焼くことが可能)」が行われることもある。
日本に内視鏡手術が導入された当初は「照射が不十分で、ヘルニアが再発するケース」が多発したが、最近では大幅に改善されている。
内視鏡手術のメリットデメリットは以下の通り。
・侵襲刺激を最小限に出来る(なので入院期間・安静期間が短い)。
・内視鏡を扱えるレベルの医師が限られている。
後縦靭帯骨化症
後縦靭帯骨化症は以下を指す。
どれが後縦靭帯化は以下のイラストを参照。
病態
骨化した靭帯により脊柱管が狭くなり脊髄や神経根が押され、様々な症状が起こる。骨化する部位によってそれぞれ頸椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、腰椎後縦靭帯骨化症と呼ばれる。
※「骨化」という用語が使わているが、骨レベルにまで靭帯が硬くなるわけではない。
特徴
後縦靭帯骨化症の特徴は以下になる。
- 人種 ⇒日本人・東南アジア人に多い
- 性差 ⇒男性に多い
- 好発部位⇒頸椎(胸椎・腰椎の後縦靭帯に発症するのは稀)
- 年齢 ⇒中年以降に多い
- 症状 ⇒脊髄・神経症状。具体的には頸部・肩甲骨周辺・手指の痛みやしびれ、高地運動障害、膀胱直腸障害、下肢脱力など(無症状の人もいる)。
- 診断 ⇒単純X線で後縦靭帯の骨化を確認。MRIで神経圧迫程度を確認。
治療
- 保存療法(頸椎カラー・薬物投与など)
- 手術療法(椎弓や骨棘切除による除圧+椎体固定術)
むち打ち損傷(頸椎捻挫)
受傷機転
追突された際に、頸椎部が過度に伸展されて生じる。
特徴
傷害は軟部組織にとどまり、脊椎の骨傷・椎間板損傷は除く。
病態
椎間関節に存在する滑膜ひだの炎症により様々な不定愁訴が発現すると考えられるが、詳細は不明。頸部痛は受傷直後に出現する場合もあるが、受傷後数時間~翌朝に強く感じることもある。
症状
症状は「受傷直後」と「数日後」で異なる場合があり、以下が特徴。
- 頚部痛+疼痛性可動域制限(伸展制限が多い)
- 自律神経失調症状・バレリウ症候群(診断できない不定愁訴ということで)
自律神経失調症状・バレリウ症候群について:
むち打ち損傷・頸椎捻挫では以下などがみられる。
・上肢しびれ ⇒MRI正常
・めまい・難聴⇒耳鼻科正常
・目がかすむ・視力が落ちた⇒眼科正常
・頭痛・吐き気⇒脳外科正常
上記は、検査所見が異常ないことから「自律神経失調症」などと一括りに纏められることがある。
治療
- 頸椎の安静⇒装具(頸椎カラー)
- 薬物療法(NSAIDS・湿布など)
- 理学療法
※保険が絡んでくるため、精神的要因も関与することがあり、難治となるケースも。
※受傷3か月で後遺症診断となり、保険会社からは「まとまったお金」を渡され「あとは自分で治してください」と突き放された途端、急に症状が悪化するなど。
いわゆる「肩凝り」
肩凝りとは以下を指す。
治療院・リラクゼーションサロンには「肩凝り」を主訴として、マッサージを希望するお客さんは多い。
しかし肩凝りには、ここに記載したものも含めて注意すべき疾患が隠れている場合があるので、鑑別が重要となる。
具体的には以下の通り。
運動したときの肩凝り |
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手の痺れや麻痺を伴う |
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首や肩を動かしていないのに痛む |
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肩凝りが徐々にひどくなってきている |
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頚肩腕症候群
頚肩腕症候群は以下を指す。
症状
肩~腕にかけて痛みやしびれが生じる。
腕や手指のシビレが出ることも多く、痛みは軽いものから耐えられないような痛みまで程度はそれぞれ。
一般に、頚椎伸展で疼痛増強することが多く、その場合は「上を見ること」や「うがいをすること」が不自由になる。
また、上肢の筋力低下や感覚の障害が生じることもある。
治療
同じ姿勢を長く続けないようにしましょう。
蒸しタオルなどで肩を温めて筋肉の血行を良くし疲労をとり、適度な運動や体操をしましょう。
入浴し身体を温め、リラックスするようにします。
各部位疾患まとめ
以下の記事では、整形外科的疾患を部位一覧として記載している。
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