この記事では、ICF(生活機能分類)について解説している。
対象者に介入する際、包括的に評価するツールとしてリハビリ分野では必須の知識と言えるため、是非この記事を通して知識を整理してみてほしい。
ICF(生活機能分類)について
ICFとは『生活機能・障害・健康の国際分類(International Classification of Functioning,Disability and Health)』の略語である。
ICF(生活機能分類)では、すべての人間の健康状況を「第1部(生活機能と障害)」「第2部(背景因子)」の2部門に整理し、説明している。
- 第1部(生活機能と障害)を「心身機能と身体構造」「活動」「参加」の3つに分けている。そしてこれらを包括し「生活機能(functioning)」としている。
- 第2部(背景因子)を「環境因子」と「個別因子」に分けて説明している。
ICFを図式にすると以下になる。
ICFにおける各要素の定義
ICFにおける「健康状態」「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」の定義は以下の通り。
健康状態
心身機能や身体構造、活動、背景因子との関係のもとでの生活状況への関与と種類の程度である。
その種類、持続性、質の面で制限されることがある。
心身機能・身体構造
- 心身機能は「生理学的、心理学的な心身の機能」である。
- 身体構造は「器官や四肢などの解剖学的な部分と、その組み合わさったもの」である。
活動
全体としての個人による行為や活動の遂行。
参加
参加の次元は社会であり、その社会的レベルにおける健康状態の結果を示す。
環境因子
「自然環境(気候や地勢)、人工環境(道具・家具建築環境)、社会の態度、習慣、規則、ならわしや制度そして他者」から構成される、人生と生活にとってのバックグラウンド。
個人因子
「健康状態にも障害にも属さないその人の特徴から構成される、人生と生活のバックグラウンド」のこと。
個人因子は以下のように多岐にわたる。
年齢、人種、性別、教育歴、経験、個性、性格スタイル、才能、その他の健康状態、体調、ライフスタイル、習慣、養育歴、ストレスの対処方法、社会的背景、職業、および過去現在の経験・・・・など。
ICFを一覧表にして整理
以下の表は「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版より」より引用したICFの概略であり、前述した内容を一覧表にしたものである。
ICFの概念 |
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第1部:生活機能と障害 |
第2部:背景因子 |
||
構成要素 |
心身機能・身体構造 |
活動・参加 |
環境因子 |
個人因子 |
領域 |
心身機能・ 身体構造 |
生活・人生領域 (課題・行為) |
生活機能と障害への外的影響 |
生活機能と障害への内的影響 |
構成概念 |
心身機能の変化 (生理的)
身体構造の変化 (解剖学的) |
能力標準的環境における課題の遂行実行状況、現在の環境における課題の遂行 |
物的環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境の特徴がもつ促進的あるいは阻害的な影響力 |
個人的な特徴の影響力 |
肯定的 側面 |
機能的・ 構造的統合性 |
活動参加 |
促通因子 |
非該当 |
生活機能 |
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否定的 側面 |
機能障害 (構造障害を含む) |
活動制限 参加制約 |
阻害因子 |
非該当 |
障害 |
「参加と活動と心身機能・構造」は「目的と手段と要素」である
「参加」と「活動」との関係は、「参加」は生きることの目的であり「活動」はそのための手段と言える。
例えば、ある人が美術館での鑑賞という社会参加の目的を果たすために、多数の生活活動を手段として用いているということになる。
一方、「生活活動」と「心身機能」は「手段と要素」の関係にあたる。
ある一つの生活活動、例えば屋外を歩いて移動するという手段のために、多数の「要素」となる「心身機能」を組み合わせて働かせているのである。
ここで重要な事は、目的と手段と要素の組み合わせは必ずしも固定的なものではなく、実はかなり柔軟性があるということである。
ある手段や要素が何らかの理由で使えなくなった場合に、そのままならその目的を達成できなくなる。ところが実際には、これまでとは違った手段や要素に変えることで同じ目的を達成することが出来る場合が多い。
上記のように「参加」を必ずしも目標にする必要はない(と個人的には思う)。
重複するが、「筋力増強」「バランス能力向上」「関節可動域改善」「疼痛緩和」といった心身機能の改善は目標達成のための「要素」に過ぎず、
少なくとも「活動」レベルを目標に掲げたリハビリでなければならないとされている。
対象者のプラス面を評価する
状態の把握にあたっては「出来ない・問題がある」というマイナスな部分だけではなく、「出来ている・頑張っている」というプラスの部分も把握し、プラスの部分については、それが家庭内や地域の通いの場などで発揮できないかを検討することが重要である。
そのことで、クライアントの自己有効感を高め、積極的な社会参加や活動的な生活を促すことが出来る。
ここで示している「プラスの部分」とは「表面上に浮き彫りになっている残存機能・残存能力」だけを指しているのではなく、「隠れて見えにくくなっている潜在性生活機能」も含まれている。
そして、「潜在性生活機能」にも着目できるかどうかは理学療法士・作業療法士にとっての腕の見せ所と言える。
そして、潜在的なプラスを引き出し伸ばすことを主としつつ、それに加えてマイナスを減らすことこそが真のリハビリテーションと言える。
これにより潜在的な生活行為の能力や拡大することのできる社会的役割は非常に大きくなると言える。
ICFにおけるプラス面とマイナス面を整理しよう
ICFの各構成要素の定義を示した図としては、以下の図が理解し易いと個人的には感じている。
ICFにおけるプラス面・マイナス面を整理するのに役立つと思う。
プラス面 |
マイナス面 |
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構成要素 |
身体系の生理的機能 (心理的機能も含む) |
構成要素 |
著しい異変や喪失といった、心身機能または構造上の問題 |
心身機能 |
器官・肢体とその構成部分などの身体の解剖学的部分 |
機能障害(構造障害も含む) |
個人が活動を行う時に生じる難しさのこと。
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活動 |
課題や行為の個人による遂行のこと |
活動制限 |
個人が活動を行う時に生じる難しさのこと |
参加 |
人生場面への関わりのこと |
参加制約 |
個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに体験する難しさのこと |
背景因子 |
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環境因子 |
人々が生活し、人生を送っている物的な環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子 |
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個人因子 |
個人に関係した背景因子である(年齢・性別・社会的状況・人生体験など)。 ただし、現在ICFでは分類はない |
~中俣恵美:国際機能分類ICFにおける「生活機能をめぐる課題」、総合福祉科学研究2:p106,2011~
ICFを活用した評価の手順
ここからは、ICFを活用した評価の手順について解説していく。
手順1:活動と参加の評価から始める。
活動と参加とは関係が深く、「活動」は「参加」の具体像なので、2つを同時にみていく。
評価の際は「できるADL」と「しているADL」の差に敏感であると同時に、「活動」と「参加」の差にも注目すること。
特に潜在的な(引き出せる)プラスが重要である。
手順2:健康状態・環境因子の影響を関連図けて考察する。
「活動」・「参加」のそれぞれに、「健康状態」、「環境因子」(物的、人的、制度・サービスなど)、「個人因子」(生活歴・職業歴、ライフスタイル、興味、価値観など)がどう影響しているかをみていく。
「環境因子」についてはプラス(促進因子としての)の影響、マイナス(阻害因子としての)の影響を明確にしていく。
同じ「環境因子」がある「活動」についてはプラスだが、別の「活動」にはマイナスに働くということもあるので注意が必要。
手順3:「心身機能/身体構造」は「活動・参加」との関連で考察。
ここまで記載してきたように「活動」「参加」を中心に考察した後に、「心身機能/身体構造」を「活動」「参加」との関連でみる。
これが『「心身機能/身体構造」 を生活・人生との関連でとらえる』ということである。
ICFを使った具体例
最後に「実際にICFを使った具体例」をイラストとして紹介して終わりにする。
ケース1
ケース2
ICFを活用することで、患者の全体像が見えてくる。
そのため、自身の思考に漏れがなく、バランスの良い介入が可能となる。
整形外科クリニック・治療院では「心身機能の改善」が求められる場面がほとんどだと思う。
一方で、訪問リハビリ・訪問マッサージは「活動・参加」や「(生活機能を取り巻く)環境因子・個人因子」への着目が重要となる場面が多く、ICFの概念はメチャクチャ相性が良い!
是非ICFの思考法を身に着けてみてほしい。