この記事では「膝関節疾患」について解説していく。
変形性膝関節症
変形性膝関節症では、(変形性股関節症と異なり)一次性が圧倒的に多い。
一次性⇒加齢以外の原因がない
二次性⇒他の疾患に引き続き発症
好発年齢・性差
変形性股関節症は、50歳以上の女性に多いと言われている。
もっと厳密にいうと、40~50歳代では圧倒的に女性の発症が多いが、80歳代以上となると性差が無くなる。
女性が多い理由として、もちろん骨格的な要素もあるが、筋量差も関係していると考えられる。
内反変形・外反変形
- 内反変形=O脚(日本人に多い)
- 外反変形=X脚(欧米人に多い)
症状
初発
・運動後に発症・歩行時痛・安静で軽快
↓
・数日~数カ月で消失⇒痛かったことを忘れる。半年か1~2年で再発を繰り返す。
・徐々に運動開始時痛(スターティングペイン)が生じるようになる(変形性関節症に共通した特徴)
進行
・安静時痛・関節水腫(繰り返す)・疼痛性ROM制限(正座が出来ないなど)
末期
・関節破壊・骨性ROM制限・内反変形・大腿四頭筋萎縮
変形性膝関節症(=膝OA)何となくのイメージ:
リハビリしなければ、40~50歳代で初期膝OA⇒60歳代で疼痛増悪・水腫繰り返す⇒70歳代で人工膝関節。
理学所見
- 膝蓋跳動
- 側方動揺(lateral thrust)
膝蓋跳動テスト
膝の腫脹を評価する徒手検査法として「膝蓋跳動テスト」がある。
※詳しくは『膝蓋跳動テストの方法・所見・解釈』を参照。
検査
単純X線検査(関節裂狭小化、骨棘形成・高度な変形)
治療
- 減量(3kg減量を目標。関節への負担は体重の5倍と考えると、15kgの負荷が減る)。
- 大腿四頭筋訓練
- NSAIDs(内服+湿布)
- 関節内注射(ステロイド・ヒアルロン酸)
- 足底版(O脚に対しては外側ウェッジ)
- 手術として人工膝関節・若くアクティブなら高位脛骨骨切り術を検討。
足底板
外側ウェッジは医療機関で保険適応で処方可能。ただし、ロフトなどで「O脚補正中敷き」も販売しているので、それを試してみるのもあり。機械的ストレスが変化するので、適応であれば即時的かつ著効を示す。ただしロフトの場合、あくまで中敷きなので屋外活動時のみの症状軽減に役立つ。
以下はアマゾンで購入できる中敷きなので、興味があればチェックしてみてほしい。
人工膝関節と高位脛骨骨切り術
人工膝関節は関節可動域制限が生じる(正座困難・しゃがみ動作困難)。また、耐久年数も考慮し、手術適応時の年齢が若い場合は高位脛骨骨切り術が適応されることもある。
補足資料
補足として理学療法士協会の資料も添付しておく。
鷲足炎
鷲足炎の特徴は以下になる。
- 脛骨上端内側の鷲足部に圧痛
- 鷲足滑液包炎の合併
- 鵞足(薄筋・縫工筋・半腱様筋)への負担
膝のスポーツ障害
ここではスポーツ障害としてランナー膝・ジャンパー膝・シンスプリントについて記載していく。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)
- ランナー膝は「腸脛靭帯と大腿骨外側顆部の」繰り返される摩擦によって生じる。
- ランニングの他、内反膝の人にも生じやすい。
- 疼痛部位は膝外側。
- 整形外科的テスト=グラスピングテスト(背臥位で大腿骨外側上顆を圧迫しながら膝を圧迫させる)
関連記事⇒『グラスピングテスト【ランナー膝の検査】』
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
- ジャンプやランニングによって、膝伸展機構に繰り返しの機械的負荷が加わって生じる慢性障害。
- 疼痛部位は膝蓋骨下端。
シンスプリント(脛骨疲労性骨膜炎)
シンスプリント(脛骨疲労性骨膜炎)
- ランニングやジャンプによって、脛骨のヒラメ筋・長趾屈筋・後脛骨筋の付着部に炎症を生じる。
- 下腿内側下1/3の範囲に疼痛が生じる(ちょうど三陰交・地機などが存在する部位)。
- 部活を始めたばかりの中高生に多く「初心者痛・新人痛」などとも呼ばれる。
膝靭帯損傷
症状
受傷直後⇒膝痛。数時間後に腫脹(出血)・疼痛・ROM制限
1週間後⇒腫脹改善、徒手検査出来るほどに動かせる。
部分断裂⇒受傷3~4週で無症状に
完全断裂⇒受傷3~4週で腫脹・疼痛は消失するが以下が残存。
- 前十字靭帯損傷 :前方引き出し現象⇒膝折れ(gicing way)
- 後十字靭帯損傷 :後方引き出し現象
- 内側側副靭帯損傷:外反動揺性
- 外側側副靭帯損傷:内反動揺性
徒手検査+診断
側副靭帯損傷の特徴・テスト
側副靭帯損傷の特徴は以下となる。
- 膝関節内側or外側の圧痛(損傷部位と同部位)
- 皮下血腫や関節内血腫
- 内反or外反不安定性
側副靭帯損傷の整形外科的テストは以下となる。
- 内反 or 外反ストレステスト(膝伸展位でOK。30°屈曲位のほうがLPPになるので、その方が楽だという人には30°屈曲位で(この辺は、臨機応変に)。
前十字靭帯損傷の特徴・テスト
前十字靭帯損傷の特徴は以下になる。
- スポーツでの受傷が多い。急激なストップや方向転換・ジャンプを繰り返すスポーツ。例えば、バスケットボール・バレーボール・スキーなど。
- 前十字靭帯損傷は、接触があろうがなかろうが膝の強制的な力がかかって起こる。
- ブチッと断裂音を自覚する場合がある。
- 運動の継続は困難。
- 受傷後は血種→患側は腫れる。
- 膝折れ(gicing way)を起こす。
前十字靭帯の整形外科的テストは以下になる。
- 前方引き出しテスト(膝90°屈曲位で=下肢屈曲位で)
- Lachman test(膝15°屈曲位で。前方引き出しの肢位で痛がる人では、この手法でもOKって感じで臨機応変に)
後十字靭帯損傷の特徴・テスト
後十字靭帯損傷の特徴は以下になる。
- スポーツ中の激しい接触型損傷や交通外傷(dashboard injury)。
- 他の靭帯損傷に比べて受傷機転がはっきりしている。
- 脛骨粗面部の皮膚に外傷を認める。
- 数時間以内に、膝関節腫脹(関節血腫)
- 膝窩部の皮下出血と圧痛
- sagging徴候(脛骨が背側変異し、膝関節において脛骨部が凹んでみえる)
- 陳旧例では膝関節不安定感
後十字靭帯の整形外科的テストは以下になる。
- 後方引き出しテスト
治療
十字靭帯
部分断裂⇒保存療法
完全断裂⇒手術・腱再建術
側副靭帯損傷
新鮮例は保存的に⇒ギプス固定(完全伸展位・鼡径部~足関節まで固定)
陳旧例(受傷後3W以上経過)では保存的には無理なので腱再建術orそのまま(保存的に)。
アンハッピートリアード
以下の3つが揃うと「アンハッピートリアード(=予後が悪い)」と言われている。
- 内側側副靭帯損傷
- 内側半月板損傷
- 前十字靭帯損傷
半月板損傷
- 日本では、外側半月が円板状半月になっている人が多い。
- 欧米では、内側半月が円板状半月になっている人が多い。
原因
半月板がが大腿骨と脛骨に挟み込まれて断裂。
症状
- 受傷直後:膝痛(内or外)⇒数時間で腫脹(+)・伸展不能⇒1W後腫脹・疼痛(-)
- 小断裂⇒数週間で関節可動域も戻り、スポーツ復帰可能。
- ただし、同様のことを繰り返し大断裂に繋がることも(大断裂では手術適用)。
- あるいは(無痛であるが)Locking(屈曲は可能だが伸展していくと引っ掛かって完全伸展不能)となる。
※「関節鏡手術レベル」であるにも関わらず保存療法を選択した人にLockingが起こりやすい(すべての人が手術を選択するわけではない)。
徒手検査
- Apey test :伏臥位・牽引(靭帯負荷↑)と圧迫(半月板負荷↑)があり鑑別に使える。
- McMarray test:背臥位・膝屈曲位からの伸展でロッキングを再現している。ただ下腿回旋も入ることで負荷↑(下腿内旋で外側半月、下腿外旋で内側半月を評価)。
診断
MRI
※半月板はX線では写らない
治療
- 保存的 ⇒大腿四頭筋強化訓練
- 鏡視下手術⇒外1/3は縫合、内2/3は摘出(部分or全摘)
前脛骨区画症候群
区画症候群とはコンパーメントシンドロームとも呼ばれ、上下肢で起こりやすい。
区画症候群の機序
(急に)普段やらないような激しい運動をするなどによって組織内圧上昇、各筋内の出血による浮腫などが生じる。
一方で、筋膜は複数の筋を束ねて覆っているが、伸張性はほとんど無いため、筋膜内において組織内圧が上昇する。
すると血行障害や神経麻痺に繋がってしまう。
前脛骨区画の構成要素
区画症候群は、特に下腿に起こりやすく下腿4区画のうち特に前脛骨区画に生じやすい。
そんな「下腿の前脛骨区画」を形成する要素は以下の通り。
- 足関節・足趾の伸筋(前脛骨筋・長母指伸筋・長趾伸筋)
- 前脛骨動脈
- 深腓骨神経
原因
- 筋浮腫 :激しいスポーツ・長時間の歩行など
- 筋膜内圧上昇:区画内出血
症状
- 前区画部の激痛と腫脹
- 足背動脈脈拍減弱または消失(前脛骨動脈は足背動脈につながっているので生じる)
- 下垂足(深腓骨神経に足関節背屈筋が支配されているので生じる)
治療
緊急筋膜切開にて落ち着くまで開放創にしておく(切開により内圧が下がる)
滑膜ひだ障害(棚障害)
滑膜ひだ障害とは、膝関節内の滑膜壁の形態異常を指す。
滑膜膝障害は、棚障害(たな障害)とも呼ばれ、膝・肘に好発する。
具体的には、「滑膜ひだ」が肥大することで以下が生じる。
不思議がってる人に教えてあげよう
膝屈曲位から完全伸展位にする際、膝蓋骨上端付近にコツっとする弾発音が生じる人は結構いる。これは半月板インピンジメントとてゃ全く異なる感触。なぜコツっとなるのか不思議がる人も多いので、不思議がっている人がたら教えてあげよう。
膝窩嚢腫(ベイカー嚢胞)
ベイカー嚢胞とは「膝窩部に生じる滑液包炎のこと」を指す。
中高年の女性にい多い。
「(滑液包炎ではあるが)熱感・疼痛が無く、腫瘤だけ」というのが特徴で、腫瘤は半腱様筋と腓腹筋内側頭の間に形成される。
ガングリオンとの鑑別が大切。
治療
治療としては以下が挙げられる。
- 滑液の穿刺・排液し、(消炎目的で)ステロイド注入
- 上記で消失しない or 栗加瀬素場合は滑液包切除も検討
各部位疾患まとめ
以下の記事では、整形外科的疾患を部位一覧として記載している。
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