この記事では、臓象における「六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)」について解説している。
六腑の共通の働きは、「飲食物の通路であって、栄養を消化・吸収(水穀の腐熟)し、残渣を大小便として排泄(糟粕の伝化)すること」である。
このことから、胆を除く五腑のことを「伝化の腑」ともいう。
胆
胆の形態と位置
- 胆は第10胸椎に付着する。
- 形はへちま形をしている。
胆の生理作用
胆は精汁(胆汁)を蔵する
胆汁は、肝の余った気(これに精が含まれるので精汁ともいう)からつくられ胆に分泌され集まって出来る。
胆汁は、脾胃の消化を助ける働きがある。
胆汁は、味が苦く、色は黄緑色(きみどりいろ)の液体である。
胆は「決断」や「勇気」を主る
胆は、身体の中央に位置するため公正中立の立場(中正)で判断し、決断する働きを持っている。
したがって、胆気が充実していると優柔不断になることや恐れることなく決断を下すことが出来る。
胆は精汁(胆汁)を蔵する。
胆 | |
正常な状態 | 病んでいる状態 |
・大胆、勇ましい、決断が早い |
・優柔不断、決断が鈍い、ビクビクしやすい、ため息をつきやすい。 ・口が苦くなる(口苦)、黄緑色の苦い液体を吐く、黄疸。 |
胆は奇恒の腑の一つである
胆は、他の腑と違い精汁の貯蔵と分泌を行う(他の腑には貯蔵の働きはない)。
また、胆は消化・吸収・排泄には直接関係しない。
上記から、胆は「奇恒の腑(骨・髄・脳・脈・胆・女子胞)」に含まれる。
小腸
小腸の位置
- 小腸は第1仙椎に付着する。
- 上は下脘穴(臍の直上2寸)の位置で幽門をもって胃と境し、下は水分穴(臍の直上1寸)の位置で闌門をもって大腸と連なる。
小腸の生理的作用
受盛と化物
小腸は胃で消化された水穀の受理(受盛)し、さらに消化を進める水穀の精微と糟粕(飲食物のかす)に変化させる。
この働きは「物を変化させる」ことから「化物」と呼ばれる。
清濁の泌別
脾胃から送られてくる水穀を脾と共同で水穀の精微(清)と糟粕(濁)に分けることを清濁の泌別(せいだくのひべつ)という。
水液の粘稠なものは小腸で吸収され、吸収されなかった希薄な水液は膀胱と大腸に送られる。
また、大腸には糟粕の固形物も送られる。
「小腸の異常により生じる現象」は以下の通り。
小腸の異常 | 現象 |
小腸の異常 | 下痢・腹痛・嘔吐・便秘など |
胃
胃の形態と位置
- 胃は第12胸椎に付着し、膈(横隔膜)の下にある。
- 形は、大きな袋状(脘という)をしている。
- 噴門部を上脘、中央部を中脘、幽門部を下脘といい、三つ併せて胃脘ともいう。
胃の生理作用
水穀の受納と腐熟を主る
受納は「受け入れる」という意味。
腐熟は「飲食物を粥状にする消化」という意味。
つまり「水穀の受納と腐熟」とは「胃の機能は飲食物を受け入れて消化をすること」である。
胃は飲食物がおさまるところなので「水穀の海」と称される。
飲食物から後天の精を取りだす脾胃の気を「胃気」といい、体全体支える働きがあるので予後を判断する上で重要となる。
生理特性
降濁
胃は「消化物を小腸に降ろす作用(降濁作用)」がある。
降濁とは「不要なものを下へ降ろすこと」を指す。
脾胃で消化された飲食物は、必要なものは脾の昇清により肺へ、不要なものは胃の降濁によりしたの小腸や大腸へ送られる。
表裏関係である脾・胃は「脾⇒昇を主る・胃⇒降を主る」により陰陽や気機の平衡を保っている。
「降濁作用の異常により生じる現象」は以下の通り。
降濁作用の異常 | 現象 |
降濁作用の異常 |
腹痛・便秘・呑酸・嘔吐・胸やけ・吃逆(しゃっくり)・噫気 |
喜湿悪燥
胃は陽明(一番陽気の強い経絡)に属し、熱が旺盛で熱化しやすい。
そのため、胃は水湿を好み、乾燥を嫌う性質がある。
※足の陽明胃経は陽経であるが一部陰の部を通り胃を冷却していると言われる例外的な経絡である。
大腸
大腸の位置
- 大腸は第4腰椎に付着する。
- 上は蘭門に連なり、下は直腸に連なる。
- 直腸下端は、肛門(魄門)である。
大腸の生理機能
糟粕の伝化
大腸の生理機能は、糟粕の伝導と変化を主ることである。
伝導とは小腸から受けた糟粕を肛門まで送ることで、その間に糟粕を大便に変えることを変化という。変化させたものを大便として排泄する。
「大腸の異常により生じる現象」は以下の通り。
大腸の異常 | 現象 |
大腸の異常 |
下痢・腹痛・便秘・しぶり腹・排便困難など |
膀胱
膀胱の形態と位置
- 膀胱は第2仙椎に付着する。
- 形は下にのみ口がある袋である。
膀胱の生理機能
貯尿と排尿
膀胱は貯尿と排尿を行う。全身をめぐった津液や小腸で分離された水分は、膀胱に注がれ(州都の官)、尿となり貯蔵される(津液蔵す)。
その後、尿として排泄する。
「膀胱の異常により生じる現象」は以下の通り。
膀胱の異常 | 現象 |
膀胱の異常 |
排尿障害・尿閉・遺尿・頻尿 |
三焦
三焦の形態
- 三焦は名のみありて形なしと記され、形態は明らかでない。
- 三焦は第1腰椎に付着する。
三焦は以下の3部に区分される。
- 上焦(横隔膜の上部)
- 中焦(横隔膜と臍の間)
- 下焦(臍より下の部)
気と津液の通路としての三焦
生理機能
飲食物を消化吸収し、これから得られた???の全身へ配布される通り道となり、三焦の気化作用により気血を円滑に行わせる(決瀆の官)一連の機能を指す。
上焦・中焦・下焦に分けてとらえる三焦
三焦 | |||
上焦 | 中焦 | 下焦 | |
部位 | 横隔膜から上の機能 | 横隔膜から臍までの間の機能 | 臍から下部の機能 |
臓腑 | 心・肺 | 脾・胃 | 肝・腎・小腸・大腸・膀胱 |
機能 |
・衛気を全身に巡らせる。 ・体温調節 |
・気血津液の調節作用 | 輸瀉作用(糟粕に含まれる余分な水分を膀胱にしみ込ませる) |
古典 (霊枢) |
「上焦は霧の如し」 肺の宣発の機能は、霧のようである。 |
「中焦は漚の如し」 食物を発酵させる漬物桶のようである。 |
「下焦は瀆の如し」 下焦は、下水道のようである。 |
※肝は「教科書的には下焦」だが「中焦に含めている文献」も存在する(それだけ肝の位置づけは曖昧)。