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訪問マッサージの囲い込み問題とは?エレベーターで見えた施設内営業と療養費改定の意味

訪問マッサージ

令和8年度のあはき療養費改定案では、訪問施術制度の見直しが大きな論点になっています。

 

特に、高齢者施設と施術所の関係、特定の施設・特定の業者に患者さんが集中する構造、業務委託料などの名目を含む経済上の利益提供、いわゆる「特別の関係」について、制度上どう整理するかが議論されています。

 

厚労省の専門委員会でも、施設と施術所の経営が一体となっているような事例や、特定施設で独占的に施術が行われるケースが論点として扱われています。

 

そんな制度上の問題意識を、妙にリアルに感じた出来事がありました。

 

 

目次

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エレベーターで見えた、施設内の訪問マッサージの空気

 

大きな施設で出会った大手訪問マッサージ会社のスタッフ

 

その日は、大きな施設へ訪問マッサージに行く日でした。

 

建物に入り、エレベーターに乗ると、同じく訪問マッサージに来ているらしい女性スタッフが一緒になりました。

 

制服や雰囲気から、施設内でよく見かける大手の訪問マッサージ会社の方だと分かります。

 

エレベーターが上がっていく途中、2階で男性スタッフが乗ってきました。どうやら彼女の同僚のようです。

 

「今日は○○さん、どこでマッサージするの?」

 

「えーと、8階の○○さんです」

 

「そうなんだ、頑張ってきてね」

 

そんな何気ない会話を交わし、男性スタッフは4階で降りていきました。

 

私は5階で降りました。担当している利用者さんのお部屋へ向かうためです。

 

 

利用者さんが部屋にいなかった

 

お部屋で待っても戻ってこられない

 

お部屋に入ると利用者さんはいませんでした。

 

最初は、トイレか、食堂か、どこか近くにおられるのだろうと思いました。

けれど、10分ほど待っても戻ってこられません。

念のため、そのフロアを探してみましたが、見当たりません。

 

職員さんに確認すると、

「もしかしたら、ご家族と6階の喫茶スペースにおられるかもしれません」

とのことでした。

 

そこで、6階へ上がってみました。

 

 

景色のよい席で、ご家族と過ごす時間

 

利用者さんは娘さんと一緒に、街を一望できる窓際の席に座っていました。

コーヒーとお菓子を前にして、ゆったりとした時間を過ごされています。

 

その場所は、いつ見ても気持ちのいいロケーションです。

施設の中とは思えないほど開放感があり、遠くの景色まで見渡せます。

 

私は少し遠慮しながら、

「訪問マッサージに来ました」

と声をかけました。

 

娘さんは少し驚いた様子で、

「あっ、今日でしたか。すみません、勘違いしていました。すぐ戻ります」

とおっしゃいました。

 

せっかくの親子の時間を急かすのも申し訳ないので、

「大丈夫です。先にお部屋でお待ちしています」

と伝え、私はもう一度5階へ戻ることにしました。

 

 

帰りのエレベーターに乗っていた女性スタッフ

 

先ほど施術に向かったはずのスタッフが、もう帰ろうとしていた

 

そして、エレベーターの扉が開いた瞬間でした。

 

中には、先ほど同僚と「8階の利用者さんのところへ行く」と話していた女性スタッフがいました。

 

今度は、帰る方向です。

 

時計を見るまでもなく、違和感がありました。

 

さっき同じエレベーターに乗っていたのは、ほんの20分弱前です。

そこから8階へ上がり、利用者さんの部屋へ行き、準備をして、施術をして、片付けて、帰りのエレベーターに乗っている。

 

もちろん、こちらには事情のすべては分かりません。

  • 利用者さんの体調が悪かったのかもしれない。
  • 予定が変更になったのかもしれない。
  • 短時間で終わらざるを得ない理由があったのかもしれない。

 

だから、その場で断定はできません。

 

それでも、現場で訪問マッサージをしている人間としては、「あまりにも早いな」と感じてしまいました。

 

おそらく、その感情が表情に出ていたのだと思います。

 

彼女も、少し気まずそうな表情をしていました。

 

その一瞬、エレベーターの中に妙な沈黙が流れました。

 

 

訪問マッサージは、ただ揉めばよい仕事なのか??

 

訪問マッサージは、単に身体をさすればよい仕事ではありません。

 

その日の体調を確認し、前回からの変化を見て、関節拘縮や筋緊張、疼痛、姿勢、浮腫、生活動作の状態を確認しながら、その方に必要な施術を組み立てていくものです。

 

もちろん、施術時間だけで良し悪しを単純に判断することはできません。

 

しかし、あまりにも短時間で、流れ作業のように施設内を回っているように見えてしまうと、どうしても考えてしまいます。

 

これは本当に、利用者さん本位の訪問マッサージなのだろうか。。。。

 

 

各階に置かれていたパンフレット

 

エレベーターを降りてすぐ目に入る場所

 

その大手訪問マッサージ会社のパンフレットは、施設の各階に置かれています。

 

しかも、エレベーターを降りてすぐの、誰の目にも入りやすい場所です。

 

小さな施設であれば、ひとりの担当者やケアマネジャーの判断でそうなることもあるかもしれません。

 

しかし、ここは規模の大きな施設です。

 

各階に同じようにパンフレットが置かれている状況を見ると、単なる現場レベルの判断ではなく、施設側と業者側の何らかの関係性や導線づくりがあるのではないか、と感じてしまいます。

 

それが契約なのか、営業努力なのか、便宜なのか、あるいは単なる慣習なのかは分かりません。

 

ただ、外から見ると、

「この施設では、この業者が標準です」

という空気ができあがっているように見えるのです。

 

 

患者さんや家族は本当に自由に選べているのか

 

訪問マッサージは、本来であれば利用者さんやご家族が選ぶものです。

 

しかし、施設の中で特定の業者のパンフレットだけが目立つ場所に置かれ、職員さんからも自然にその業者を紹介されるような流れがあると、ご家族は次のように感じるかもしれません。

 

  • この施設では、この業者に頼むのが普通なのだろう
  • 他の事業所を選ぶと、施設に迷惑がかかるのではないか
  • よく分からないので、施設が勧めるところにしておこう
  • すでに施設内に入っている業者なら安心なのだろう

 

もちろん、施設側が利用者さんのためを思って紹介している場合もあります。

 

けれど、選択肢が十分に示されないまま、特定の業者へ自然に流れていく構造があるとすれば、それは「自由な選択」と言えるのかを考える必要があります。

 

 

令和8年度の療養費改定案とつながる問題

 

特定の施設に施術が集中する場合の見直し

 

令和8年度のあはき療養費改定案では、訪問施術料の区分見直しが示されています。

 

特に、同一日・同一建物で多数の患者さんに施術を行う場合の区分として、訪問施術料4、訪問施術料5が新設される方向です。

 

さらに、訪問施術料4または5を算定する施術所について、特定の施設で行われる訪問施術が全体の9割以上となる場合、その施設での訪問施術料金について一定の見直しを行う内容も示されています。

 

これは、特定施設に患者さんが集中し、効率的に施術が行われている場合には、その実態に応じて評価を見直すという考え方です。

 

 

経済上の利益提供や特別の関係も論点になっている

 

今回の改定案で特に重要なのは、単に料金を調整するだけではない点です。

 

厚生労働省の資料では、経済上の利益の提供を伴って行われた施術や、施術所と訪問先施設等が特別の関係にある場合の施術について、療養費の支給対象外とする取り扱いが示されています。

 

これは、訪問マッサージが患者さんの必要性ではなく、施設と業者の関係性によって動いてしまうことを防ぐための方向性だと考えられます。

 

 

今回の出来事は、その問題を考える一つの風景だった

 

今回、私が見た出来事だけで、何かを断定することはできません。

 

短時間で施術が終わったように見えたことにも、正当な理由があったかもしれません。各階にパンフレットが置かれていることも、単なる情報提供だったのかもしれません。

 

しかし、現場で見た一つひとつの風景をつなげると、今回の療養費改定案で議論されている問題が、決して机上の話ではないことを感じます。

 

特定の業者が施設内で強い存在感を持つ。

 

利用者さんやご家族が、自然とその業者を選ぶ流れができる。

 

そして、施術が本当に一人ひとりに向き合ったものなのか、外からは分かりにくくなる。

 

こうした構造こそ、これからの訪問マッサージ制度で見直されるべき点なのだと思います。

 

 

現場で見えたことと制度改定の関係

 

現場で見えたこと 考えられる問題 制度改定と関係する視点
特定の訪問マッサージ会社のパンフレットが各階に置かれていた 利用者さんや家族の選択が、特定業者へ自然に誘導される可能性がある 施設と施術所の関係性、特定業者への偏り、情報提供の公平性が問われる
同じ会社のスタッフが施設内で複数活動していた 施設内で大規模に件数を回している可能性がある 同一日・同一建物で多数施術を行う場合の訪問施術料区分の見直しと関係する
施術に向かったはずのスタッフが短時間で帰るように見えた 十分な状態確認や説明が行われているか、外部からは分かりにくい 施術内容の透明性、明細書発行、患者への情報提供の重要性と関係する
施設内に「この業者が標準」という空気があるように見えた 患者さんや家族が他の選択肢を考えにくくなる可能性がある 経済上の利益提供や特別の関係の有無が、今後より重要になる

 

 

私が利用者さんのお部屋で考えたこと

 

いつも通り、目の前の一人に向き合う

 

その後、私は5階の利用者さんのお部屋で待ちました。

 

娘さんとのコーヒーの時間を終えた利用者さんが戻ってこられ、いつもどおり施術を始めました。

 

身体の状態を確認し、前回との違いを見て、必要な部位に触れ、会話をしながら進めていく。

 

特別なことをしたわけではありません。

 

ただ、目の前のひとりの方に、きちんと時間と注意を向けただけです。

 

でも、その当たり前が、訪問マッサージではとても大切なのだと思います。

 

 

その訪問は、本当に利用者さんのための訪問なのか

 

エレベーターでの一瞬の出来事は、些細なことかもしれません。

 

けれど、施設の各階に置かれたパンフレット、短時間で帰っていく施術者、特定業者が施設内で存在感を持っている空気。

 

それらが重なったとき、私は今回の療養費改定で議論されている「囲い込み」や「特定業者への偏り」の問題を、現場の風景として見た気がしました。

 

訪問マッサージは、施設の空き時間を埋めるサービスではありません。

 

利用者さんの身体機能、生活、痛み、不安に関わる医療保険上の施術です。

 

だからこそ、誰が施術するのか、なぜその施術が必要なのか、どのような内容で行われているのかが、もっと透明でなければならない。

 

制度改定が目指すべきなのは、真面目な施術者を締めつけることではなく、不自然な囲い込みや、質より効率が優先される構造を減らすことだと思います。

 

そして現場にいる私たちもまた、問われています。

 

「その訪問は、本当に利用者さんのための訪問なのか」

 

エレベーターの扉が閉まったあとも、その問いだけが、しばらく頭から離れませんでした。

 

 

まとめ

 

訪問マッサージの現場では、制度資料だけでは見えない問題が、日常の小さな場面に表れることがあります。

 

今回の出来事も、単独で何かを断定できるものではありません。

 

しかし、特定の訪問マッサージ会社のパンフレットが施設内で目立つ場所に置かれ、同じ会社のスタッフが複数出入りし、短時間で施術が終わったように見える場面に出会ったとき、私は今回の療養費改定案で議論されている問題を、現場の風景として感じました。

 

訪問マッサージは、利用者さんの身体と生活に関わる大切な制度です。

 

だからこそ、施設の都合や業者の営業力ではなく、利用者さんの状態、希望、必要性に基づいて選ばれるべきです。

 

これからの訪問マッサージには、施術の質だけでなく、選ばれ方の透明性も求められます。

 

制度改定をきっかけに、利用者さん、ご家族、施設、施術者のすべてにとって、より誠実な訪問マッサージの形が広がっていくことを願っています。

 

 

参考文献・関連情報

 

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