この記事では「自然免疫と獲得免疫の違い」と「液性免疫と細胞性免疫の違い」について解説している。
自然免疫と獲得免疫の違い
自然免疫反応とは
自然免疫反応とは、有害物質が体内へ侵入した際「真っ先に働く」免疫反応である。
生まれついて持っている免疫反応なため「先天性免疫反応」とも呼ばれる。
自然免疫反応は、マクロファージや好中球の貪食作用によって成される。
※好中球には食作用だけでなく、消化作用もある。
例えば傷を負った際、直ぐに好中球(消化+貪食⇒化膿)とマクロファージ(貪食)が働く。
獲得免疫反応とは
獲得免疫反応とは、有害物質が体内へ侵入した際、その有害物質に対して「特異的に攻撃する反応」である。
生後獲得される免疫反応なため「後天性免疫反応」とも呼ばれる。
獲得免疫反応は、T細胞・B細胞(形質細胞)が関与する。
ちなみにナチュラルキラーT細胞は自然免疫なので混乱しないように。
自然免疫反応は以下の順に起こる。
- Tリンパ球が、マクロファージから抗原提示を受ける。
- 抗原提示を受けたTリンパ球がBリンパ球と情報交換をする。
- Bリンパ球が「侵入した病原体に特異的な抗体」を分泌。
- 抗体が病原体(抗原)と融和・結合することで、病原体を攻撃する。
上記①~④の工程を得るため、自然免疫よりも時間を要す。
自然免疫反応と獲得免疫反応のイラスト
自然免疫反応と獲得免疫反応のイラストは以下になる。
免疫にかかわる色んな細胞
念のため、免疫に関わる様々な組織・細胞を掲載しておく。
皮層や粘膜のバリア
皮膚や粘膜は外から入り込もうとする敵に対する強いバリアとなっている。
しかも、ただの壁ではなく、汗や鼻水、涙、粘液などによって、敵を洗い流したり、唾液や胃酸などのように殺菌したりする機構も備えている。
さらに、菌が増殖しにくいような環境整備もしている。
マクロファージ
マクロファージは、免疫システムの中でも、とくにさまざまな役割を演じる多機能な細胞だ。
マクロファージの機能は以下の通り。
- 見張りをして外敵を見つける(非自己の認識)
- 屍つけると食べて溶かしてしまう(貪食)
- 外敵侵入の情報を本部に知らせる(ヘルパーT細胞への情報伝達サイトカインの放出、NK細胞の活性化)
- 食べた相手の情報を取り出し、どんな敵かを明らかにする(抗原提示)
- 戦場となった場所の死骸や塵を食べて片づける(清掃)
好中球
好中球は外敵進入の連絡(サイトカイン)を受けると、すぐに駆けつけて、相手を食べて殺す役割を担っている。また、マクロファージは敵を酵素で溶かすのだが、好中球は活性酸素も使って溶かす。
好中球は骨髄で作られ、血管で運ばれて、血管から組織間に出て働く。そのために輸送路が確保されるわけだ。
好中球は大群で押し寄せて戦闘を繰り広げて、相手を食べて殺した後は自分も死んでしまう(そもそも血液内における好中球の寿命は10時間程度しかない)。
従って、戦場の後片づけはマクロファージ任せということになる。
好酸球・好塩基球
好中球と同じ顆粒球と呼ばれる仲間に、好酸球と好塩基球がある。
好酸球はアレルギーで大きな役割を演じるほか、寄生虫に対しても反応する。
好塩基球もアレルギーに関連するといわれており、(肥満細胞と同様に)ヒスタミンを放出する。
ナチュラル・キラー細胞
リンパ球にはT細胞とB細胞のほか『ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)』が存在する。
NK細胞はその名前の通り「生まれついての殺し屋」だ。
身体を巡回して敵を発見次第に殺す、自然免疫システムの中で最強の戦士。
殺傷力が高く、細菌だけでなく、ウィルスに感染している細胞や、がん細胞も単独で直接破壊してしまう。
樹状細胞
樹状細胞は、自然免疫と獲得免疫の間を取りもつ重要な細胞だ。
通常はマクロファージのように前線で見張りについて、敵が侵入すれば捕まえる。
そして敵(抗原)の情報を解読し、作戦本部(脾臓など)に出向いて、獲得免疫チームに伝える(抗原提示)。
T 細胞
リンパ球の一つであるT細胞は、感染した細胞を見つけて排除する仕事をする。
T細胞は「ヘルパーT細胞」「キラーT細胞「サプレッサーT細胞」に分類される。
ヘルパーT細胞
ヘルパーT細胞は、免疫システムの司令官だ。
マクロファージから外敵侵入の知らせとともに、敵の情報(抗原提示)も受け、特殊部隊としてキラーT細胞を戦闘に向かわせる。
一方で、B細胞に特殊ミサイル(抗体)の産生を命じる。
キラーT細胞
キラーT細胞は、訓練された殺しを専門とする特殊部隊。
ヘルパーT細胞から指令を受けて増員し、活性を増した状態で動員される。
抗体に捕まえられた敵を破壊するだけでなく、敵に乗っ取られた細胞も外敵もろとも破壊する。
一方で、その一部はメモリー・キラーT細胞となって敵を記憶し、次に同じ敵が現れたときに備える。
サプレッサーT細胞
サプレッサーT細胞は、指令本部のメンバー。
キラーT細胞とB細胞に攻撃中止命令を出して、過剰な攻撃や武器の産生を抑えたり、戦闘を終結させたりする。
ヘルパーT細胞とキラーT細胞(細胞傷害T細胞)については以下のイラストも参照。
関連記事⇒『内因(性別・先天性・体性防御能) | 病理学』
液性免疫と細胞性免疫の違い
次に、液性免疫と細胞性免疫について解説していく。
液性免疫・細胞性免疫ともに、外来異物で生体に不利益な有害物質が入ってきた際『特異的』に異物を攻撃する点は共通している。
液性免疫
液性免疫は、「(前述した)Bリンパ球から分泌された抗体」を介する免疫を指す。
Bリンパ球から産生される抗体の種類は以下の通り。
- IgM:生まれつき持っている抗体。
- IgG:免疫後に作られる(IgMがIgGにクラススイッチして免疫を作る)
- IgA:粘膜
- IgE:I型アレルギー
- IgD:特徴無し
ちなみに、ワクチン接種目指すのは「感染防御能を有したIgG」の獲得である。
※「感染防御能を有していないIgG」も存在し、それらが獲得されても感染は防止できない。
なぜ「液性」という名称なのか?
Bリンパ球が産生する抗体は「免疫グロブリン(γグロブリン)」とも呼ばれる。そして、免疫グロブリンは血漿に溶けている。つまり「血漿=液体に存在する免疫」ということで液性免疫とい名称がついている。
細胞性免疫
細胞性免疫はTリンパ球が主役となる免疫を指す。
具体的には以下などのTリンパ球が関与。
- 細胞傷害T細胞(キラーT細胞):ウィルス感染細胞。移植された細胞の攻撃
- ヘルパーT細胞:免疫不全体の抑制
自然免疫・獲得免疫を「防衛軍」に例える
身体は常にさまざまな刺激から自らを防衛しています。外敵から身を守る戦いだ。
これを担当するしくみは、よく「防衛軍」に例えられる。
では、効果的な防衛を展開するにはどんな部隊が必要だろうか?
防衛軍における「初期防衛システム=自然免疫」
まずは、外壁を固めて、敵を攻め込みにくくする必要がある。
その上で、見張りを置いて、いち早く敵を発見できるようにする。
外壁の内側は常に兵備して、万一壁を破られたときでもすぐ反応できるようにする必要もあるだろう。
強い敵が現れて戦線を突破されないように、常にパトロールしている精鋭の兵士がいれば理想的だ。
戦いが始まったら、敵が来たことを本部へ連絡し、要請された機動部隊が派遣される。
このとき、機動部隊の補給路の確保も重要だ。
戦いが終わったら、戦地は清掃して元通りにする必要も出てくるだろう。
これらは、どのような敵に対しても同じような機構で防衛するシステムであり『自然免疫』と呼ばれる。
防衛軍における「後期防衛システム=獲得免疫」
戦いが始まったら、前述した防衛システムのほかに、敵に関する情報も伝える必要があるでしょう。
交戦中は後方に作戦指令本部を設置して、戦闘の開始から終結まで、司令官の下に統率の取れた作戦を考えなければならない。
敵の性格に合わせて訓練した特殊部隊を編制して派遣したり、特定の敵にのみ標準を合わせることのできる小型ミサイルを製造して投入したりと、かなり高度な戦略がとられる。
特定の敵に対する部隊や武器は、同じ敵が現れたときにすぐにまた使えるように記録を保管してく。
これらは、敵の性格を知り、その敵に対して専門的な武器で防御にあたるシステムであり、『獲得免疫』と呼ばれる。
身体の防衛に、自然免疫・獲得免疫の両方が必要
どんな敵に対しても素早く反応してやっつける自然免疫(初期防衛システム)は、私たちが生まれつき備えているものだ。
それに対して、以前の敵を覚えておいて、同じ敵が再度あらわれたときに専用の武器を用いてやっつける獲得免疫(後期防衛システム)は、主に初期防衛システムで撃退できなかったときに働く。
獲得免疫の中には、敵(抗原)に対して専用の抗体という武器を作って対応する『液性免疫』と、敵を覚えているリンパ球が攻撃殺傷にあたる『細胞性免疫』がある。
これらは、どちらも経験と教育、育成が必要なシステムといえる。
自然免疫と獲得免疫という二つの免疫系が状況に応じて的確に働いて外敵から身を守るのが、人が持っている免疫システムなのだ。