炎症 | 病理学

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この記事では炎症について解説していく。

 

目次

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炎症における「全身の応答」

 

「炎症における全身応答」は「マクロファージの活性化」がスタート。

 

マクロファージの活性化により以下が起こる。

  • (外傷・感染部位などにおける)局所の炎症所見(後述するイラスト参照)
  • 炎症性サイトカイン(IL1・IL6・TNFα)が産生

 

炎症性サイトカインの役割

 

炎症性サイトカインの役割は以下になる。

  • プロスタグランジンの産生・セットポイント上昇
  • 肝臓で様々な物質の合成促進(一部抑制)

 

プロスタグランジンの産生・セットポイント上昇

炎症性サイトカインはプロスタグランジンを産生し、視床下部(温熱中枢)におけるセットポイントを挙げる。

 

  1. セットポイントが上昇すると、それに追いつこうと体温が上昇する。この際に、血管・立毛筋収縮により発汗抑制が生じる。また、悪寒(震え産熱)も生じる

  2. セットポイントと体温が一致すると、悪寒が消失。

  3. 原因除去されると急激にセットポイントが下がり、それに追いつこうと体温が低下する。この際に「暑い」と感じ、発汗が生じる。
解熱薬は、このプロスタグランジン産生を阻害することで、セットポイント上昇を抑制させることを狙っている。ただし、37℃は微生物などが育ちやすいため、セットポイントを上げることは微生物を育てにくくすることにつながるため、微生物感染に起因する場合の解熱薬服用はには賛否ある(頭痛などは除く)。

 

肝臓で様々な物質の合成促進(一部抑制)

炎症性サイトカインにより肝臓で以下の合成が促進される。

  • 急性相に合成される蛋白
  • CRP(C反応性蛋白)
  • SAA(血清アミロイドAタンパク)
  • フィブリノゲン
  • ハプトグロビン
  • 補体
特にCRP「は肝臓で作られ、菌体に取り付き、免疫系に食べさせる役割」を担っており、炎症を判定するのに有用な指標。

 

一方で、以下は合成が抑制される。

  • アルブミン
  • トランスフェリン(鉄を血中に運ぶ蛋白)

 

また、肝臓ではへプシジン(血中への鉄供給を阻害するモノ)も産生させることで、感染源の微生物への鉄供給を抑制するが、(血中の鉄が不足してしまうため)貧血症状が生じる

※貧血が生じてでお、微生物をやっつけようとする反応が起こるということ。

 

ここまで内容をイラストにしたものが以下になる。

 

 

ここから先は、へプシジンによって生じる貧血について深堀解説していく。

 

 

へプシジンと貧血

 

炎症性サイトカインはへプシジンを産生し、これが血中への鉄供給を阻害することで「(微生物への鉄供給を抑制するとともに)貧血症状が生じる」と前述した。

 

ちなみに、鉄は「フェリチン」として体内に貯蔵されている。

貯蔵されている部位は以下など。

  • 肝臓
  • マクロファージ

また「食物として鉄を摂取する」と腸管からフェリチンとして血中へ送られる。

 

「肝臓・マクロファージ・腸管から血中へフェリチンを送る際」にはトランスポーチンを通る。

トラスポーチンを通って血中に出たフェリチンは、トランスフェリンに乗せられて、血中を移動する。

 

そして、「上記のトランスポーチンに蓋をしてしまう作用」を持っているのが、前述したへプシジンである。

 

ここまでの解説をイラスト化したものが以下になる。

 

 

上記からも分かるように、炎症性貧血では体内の鉄が足りないわけではない(血中の鉄が足りないだけ)のでフェリチン値は高値である。

一方で、トランスフェリン(血中のフェリチンを乗せて移動するタンパク)は、へプシジンによりトランスポーチン(フェリチンが血中に出るための通路)に蓋をしてしまって不要なため、低値になる。

 

これらのことから、鉄欠乏性貧血(体内の鉄自体が不足している)と炎症性貧血の違いは以下となる。

 

  フェリチン トランスフェリン
鉄欠乏性貧血 低値 高値
炎症性貧血 高値 低値

 

炎症性貧血では肝臓でヘプシジンが造られ、フェロポーチンに蓋をしてしまう。

なので結核・関節リウマチは(全身の炎症性疾患なので)貧血で顔が青白くなりやすい。

 

しかし、だからといって(鉄欠乏性貧血のように)食物から鉄分を補充しても、(腸管膜フェロポーチンに蓋がされてしまっているから鉄が血中に移動しないため)貧血症状は解消されない。

貧血の原因が(鉄不足ではなく)炎症なので、貧血改善には炎症抑制を図る必要がある。

 

 

ここまでの解説イラストまとめ

 

ここまでの解説をすべてイラストにしてまとめると以下になる。

 

 

赤沈とは

 

「炎症の局所応答」を解説する前に、赤沈について記載しておく。

 

赤沈は「炎症を判断することが可能な指標」で「赤沈が促進していれば炎症が生じている」と判断できる。

 

 

なぜ炎症によって赤沈が促進するのか

赤血球の表面はマイナス荷電しているため、反発しあっておりくっ付かない。

また、血漿もアルブミン(マイナス荷電)の量が多いため反発しあっており、くっ付かない。

ただし、炎症により以下が生じることで赤沈が促進される。

  • アルブミン(マイナス荷電)が減ることで、プラス荷電の血漿(フィブリノゲン)が相対的に増え、くっ付いてしまう。
  • 赤血球数が減ってしまう(貧血による)

 

 

ただし、「炎症=赤沈促進」ではなく、例外も存在するので注意。

例えば、妊娠するとフィブリノゲンが大量に作られるので、赤沈は亢進する。

 

以下は「赤沈速度」「CRP」の観点から炎症を分類した表になる。

 

  CRP
赤沈 促進

・感染症

・炎症

・(鉄欠乏性貧血など炎症を伴わない)貧血

・多発性骨髄腫

遅延 ・DIC

・多血症

・DIC

 

※DICはフィブリノゲンなど血液凝固因子を使用するので、赤沈値はケースバイケース。

 

炎症の経過特徴

 

ここまでに記載してきた「炎症の経過特徴」は以下になる。

 

数分以内

・直ちに、好中球↑

・時間差で、単球も↑

~時間 IL1・IL6・TNFα↑・発熱
半日 CRP高値となる
週以降 赤沈促進・貧血

 

炎症の局所応答

 

ここから先は、炎症の局所応答について記載していく。

炎症の5大徴候は以下の通り。

疼痛・発赤・腫脹・熱感・機能障害

 

炎症の局所応答の機序は以下の通り。

  1. 損傷・感染などで一瞬の血管収縮が起こる。
  2. その後、すかさず肥満細胞によるヒスタミン作用で「細動脈・毛細血管の拡張」が起こり血液が充満する(発赤・熱感が生じる)。
  3. また、血管透過性が亢進することで、白血球が滲出し、腫脹が起こる。

 

上記をイラスト化したものが以下になる。

 

滲出する白血球について

 

滲出(しんしゅつえき)とは、血液成分が組織の血管内皮の隙間を通って出ることを指す。

滲出液の成分はさまざまで以下の通り。

  • アルブミンと水分が主
  • フィブリノゲンが主
  • 赤血球が出ることもあるが、白血球ほど変形しないので隙間から出にくいので稀。

 

滲出液と漏出液

滲出液と漏出液の違いは「血漿タンパクの量」であり以下の通り。

  • 滲出液⇒水以外に多量のタンパクが滲み出る。炎症時の表現として用いられる。
  • 漏出液⇒水が主に漏れ出る(タンパク質は出ても少量)。炎症時以外の表現として用いられる(例えば心不全による浮腫など)。

 

白血球遊走

 

白血球遊走とは「白血球が炎症局所へ向かい、炎症局所で働くこと」を指す。

 

プロスタグランジンの産生

発痛物質であるプロスタグランジンの発生機序は以下の通り。

  1. 前述したように毛細血管・細動脈が拡張して血流が停滞すると、白血球が血管内皮細胞の隙間から漏出する。
  2. 白血球のうち、単球はマクロファージとなり炎症性サイトカインを産生する。
  3. 炎症サイトカインからはIL1・IL6・TNFαが産生され、この中のIL1からはプロスタグランジンが生成される。
  4. プロスタグランジンは発熱・発痛物質である。

 

ブラジキニンの産生

発痛物質であるブラジキニンの産生機序は以下の通り。

  1. 炎症局所では、組織損傷などで血管内皮が損傷
  2. 内因性血液凝固が活性化(12因子活性化)
  3. Ⅻ因子は血液凝固をスタートさせるだけでなく、(カリクレインを活性化させることで)ブラジキニン(発痛物質)も産生する。

上記から、出血部位は「血液凝固作用とセットで疼痛も惹起する」ということが理解できる。

 

上記をイラスト化したものが以下になる。

 

 

 

炎症に関わる因子

 

炎症に関わる因子は以下通り。

 

ヒスタミン

肥満細胞・好塩基球・血小板が造る

遊離の原因⇒物理って気・異物との接触・IgE-抗原(アレルゲン←異物が入ったときなどで痒みがでたりなどアレルギー)・補体

作用⇒血管拡張・血管の透過性亢進

 

セロトニン

セロトニンは、炎症局所の血小板のこと(なので脳内伝達物質とは分けて考える)

作用⇒血管透過性亢進

 

ブラジキニン

ブラジキニンは前述したように、血液凝固活性化の結果産生される物質。

作用⇒疼痛・血管拡張・血管透過性亢進

 

補体

補体とは「血漿中の蛋白分解酵素系」である。

作用⇒標的の消化・血管透過性亢進・白血球遊走能亢進

補体活性時にアナフィラキシン(C3a・C4a・C5a)が出来る⇒炎症応答を強める

 

プロスタグランジン・ロイコトリエンなど

プロスタグランジン・ロイコトリエンは、いずれもアラキドン酸から生じる。

 

上記の過程を理解することで、ステロイド・非ステロイド剤が、何への影響を与えているのかが理解できる。

  • ステロイド :ホスホリパーゼの抑制を狙っている。
  • 非ステロイドCOXの抑制を狙っている。

 

 

滲出液による炎症の分類

 

滲出液による炎症の分類は以下になる。

 

滲出液 特徴 代表疾患

漿液性炎

・細胞成分少ない

・水が主

これら(米とぎ汁便)、虫刺され、アレルギー性鼻炎

カタル性炎:「粘膜の炎症をカタル」と呼ぶことがあった。例えば鼻炎であれば鼻カタルと表現する。

線維素性炎 フィブリノゲンが多い

・ジフテリア(フィブリンによる偽膜を作る)

・大葉性肺炎

化膿性炎

・膿瘍・蜂窩織炎・蓄膿

・好中球が主(膿は好中球の残骸)

・膿瘍(肝膿瘍・肺膿瘍など)

・急性虫垂炎・副鼻腔炎

出血性炎 赤血球が出現(血管破壊により)

・腸管出血性大腸菌(ベロ毒)

・インフルエンザ菌による肺炎

 

膿瘍⇒化膿が限局。

蜂窩織炎⇒化膿がびまん性に広がり壊死し、線維が残った状態(これが「蜂の巣」に似ている)。

蓄膿⇒「既に存在していた腔」で化膿する。

 

 

慢性炎症

 

ここでは慢性炎症について記載していく(慢性炎症は「特異性炎」とも呼ばれる)。

 

慢性炎症の定義

慢性炎症とは「数週間から数カ月以上にわたって存在する障害刺激による増殖性変化(肉芽形成)」を指す。

※肉芽が形成される目的は病原体の隔離。

※一般的な炎症の過程で起きる「滲出の時期」がほどんど無い(つまり好中球がほとんど増えない)

 

慢性炎症の特徴

慢性炎症の特徴は以下の通り。

  • 多核白血球は減る。
  • マクロファージは巨細胞化する(=異物巨細胞と呼ぶ)
  • 血管内皮増殖・線維素細胞増殖

 

慢性炎症疾患の例

慢性炎症を呈する疾患としては以下などが挙げられる。

結核・梅毒・サルコイドーシス・ハンセン病・真菌症

 

ここから先は結核にフォーカスを当てて慢性炎症について記載していく。

 

結核

 

特徴

結核の特徴は以下の通り。

  • 空気感染(飛沫感染)。長時間空気に漂う。
  • 発感染巣はである。

復習!

空気感染するものは麻疹・水痘・結核の3つである!

 

進行機序

10日以内に乾酪化⇒2~3年後に石灰化(生涯残り、胸部X線に反映される)、ただし結核菌は体内に残る(なのでツベルクリン反応は陽性となる)⇒後に発症すると二次結核(高齢者・免疫不全者で発症しやすい)。

 

結核感染部の組織(結核性肉芽種)

 

 

発病

肺門リンパ節腫脹で空洞形成

 

蔓延の種類

蔓延には以下の種類がある。

  • リンパ行性:肝門リンパ節⇒器官リンパ管⇒静脈角⇒全身
  • 血 行 性:直接血中へまたは静脈角経由
  • 管 内 性:器官⇒食道⇒大腸

 

上記の結果、どの臓器にも影響を与える。

例えば、腎結核・大腸結核・脊椎カリエス・粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)

 

※粟粒結核とは、(免疫不全の際などに)様々な部位に粟状の結節が出来ること。

 

結核による問題は(結核菌そのものではなく)「菌に対応する自分自身の肉芽が悪さをしていること」である。

 

病変部位の結核性肉芽種は冷膿瘍と呼ばれる(通常の膿と比べて冷たいため)。

 

 

検査・診断

検査・診断としては以下などが用いられる。

  • 胸部X線・胸部CT
  • 喀痰検査
  • ツベルクリン反応(皮内反応)
  • インターフェロンγ遊離試験

喀痰検査:

抗酸菌色素のチールネルゼン色素

菌が陽性だとガフキー陽性(0~10号)⇒排菌・・・・・これが陽性なら隔離対象となる。

治療

  • イソニアシード
  • リファンシピン
  • ピラジナビド
  • エタンブトール
  • ストレプトマイシン

 

イソニアシード・リファンシピンの2剤に耐性だと、多剤耐性結核菌(MDR-TB)である。

※更にMDR-TBがキノロン薬とアミノグリコシド薬に耐性となると超多剤耐性結核菌(XDR-TB)である。

※MDR-TBは「マルチドラッグレジスタントトゥーベルクローシ」の訳。

ストレプトマイシンは、結核菌治療薬として一番最初に使われ始めたが、腎・聴覚障害あるので使用頻度減ってきている。

 

 

梅毒

 

梅毒スピロヘータ(トリポネーマバリズム)はTPとも略される。

 

梅毒のポイントは以下の通り。

  • 2019年ごろから、特に20代女性で増加中な疾患。
  • 性感染くらいでしかかからないため(空気感染する結核などと比べると)感染力は弱い。
  • ちなみに江戸時代には、「江戸の半数が梅毒にかかっていた」とも言われる。
  • 梅毒は細菌の一種だが、人工培地で育たない(つまり後述するように、感染の有無は、体内で出来る抗体で判断するしかない)⇒診断が難しい(臨床症状・生体の免疫応答で判断)。
  • ヒトに感染してのみ増殖する=肉芽が形成される(この点は梅毒と同じ)。

 

 

経過

梅毒の経過は1・2・3期に分類され、各期の症状は以下の通り。

 

第一期(3週頃~3か月まで)

  • 初期硬結
  • 硬化下疳
  • 無痛性鼡径リンパ節腫脹

 

第二期(3か月~3年まで)

  • 梅毒(バラ疹)
  • 扁平コンジローマ

※この時期からは血液を流れて全身症状に

 

第三期(3年以降)

  • ゴム種
  • 脊髄癆
  • 大動脈瘤
  • 進行性麻痺
  • 麻痺性認知症

 

以下は経過を図示したもの。

 

 

検査

梅毒の検査は、感染から4~6週までは検査が陰性となる点に注意。

梅毒検査の種類は以下の2つである。

 

STS法

梅毒感染時にカルジオライピン(リン脂質の一種)に対する抗体が高値となることを利用。

ワッセルマン反応もSTSの一つ

STS法の特徴は「感度が高い・偽陽性がある・治療後陰性となる」という点。

※「感度が高い=発見できる能力が高い」であるが、梅毒に対する抗体を利用しているわけではないので、間違って陽性となる(偽陽性)となることも。

 

抗TP法

梅毒スピロヘータ自体の抗体を検出する。

抗TP法の特徴は「特異度が高い・治療後も陽性となる」という点。

「特異度が高い=陰性の人とを間違って陽性と判断しない」である。梅毒自体の抗体なので偽陽性にはならないが、治癒後も抗体が残り続ける(治癒後も陽性となるので、発症しているのか治癒しているかの判断が難しい)。

 

上記のように、各検査で一長一短がある。感度・特異度ともに高い検査があれば理想だが、そのような検査はなかなか存在しない。

 

判定基準の一覧は以下の通り。

 

STS 抗TP 判定
未感染・感染直後
感染初期・偽陽性
感染中
治癒後(=感染力無し)

 

上記「偽陽性」を生物学的偽陽性(BFP)と呼ぶ。

※SLE・抗リン脂質抗体症候群。

 

 

ハンセン病

 

ハンセン病は、抗酸菌の一種である『レプラ菌』が数年~数十年潜伏した後に発症する疾患である。

ハンセン病は「皮膚・粘膜に肉芽種形成」⇒「(菌により組織が壊れて)潰瘍」⇒「瘢痕」につながる。

レプロミン反応+。

 

 

サルコイドーシス

 

サルコイドーシスの特徴は以下の通り。

  • サルコイドーシスは「原因不明の肉芽種形成」である。
  • 肺門リンパ節腫脹を認める(=結核と類似点)
  • 肉芽種の中心に乾酪壊死なし(=結核との相違点)
  • ツベルクリン反応陰性化(=結核との相違点)
  • 眼⇒ぶどう膜炎(ぶどう膜炎は、サルコイドーシスorベーチェット病でしか国試で問われないほど特徴的)
  • 心・肺で肉芽種

 

その他の肉芽腫形成性疾患

 

その他の肉芽種形成疾患としては以下が挙げられる。

  • 真菌
  • 腸チフス
  • リウマチ熱(アショフ結節が特徴的)
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