この記事では消化器疾患について解説している。
目次
吐血と下血
消化器疾患について記載していく前に、吐血と下血について記載していく。
吐血・下血とも消化器出血によって生じるものだが以下の違いがある。
吐血
口から血を吐く
原因部位は上部消化管
ちなみに「呼吸器出血により口から血を吐く場合」は『喀血』と呼ばれる。
口から血を吐く点は同じだが、吐血は色が淀んでおり、喀血は鮮やかという違いがある。
下血
便に血液が含まれた状態で排出。
- 原因部位は上部消化管(例えば出血量が少なかったり、吐血後に余った血液が下血されるなど)や下部消化管。
- 上部・下部のどちらが原因部位かによって便の色が異なる。
- 上部消化管⇒タール便(黒色)
- 下部消化管⇒鮮血(鮮やかな赤色。例えば赤痢など)
消化管の出血原因
消化管が出血する原因としては以下などが挙げられる。
- 潰瘍
- 潰瘍
- 悪性腫瘍
- 悪性腫瘍
- 静脈瘤破裂
- 静脈瘤破裂
上記の様に悪性腫瘍も出血の原因になる。
従って、検便は消化器癌のスクリーニングに有用。
面倒くさがらずに検便しよう。
消化器の癌について(総論)
癌の死亡数順位は、以前は消化器の癌が多かったが、以下の理由から減少傾向にある(特にい食道癌・胃癌)。
- 原因が判明した癌が増えて、早期の対策が可能となったから
- 検査精度が高まり早期発見が可能となったから(発症率ではなく、死亡率が低下した)
最近は大腸癌・胃癌ではなく、肺癌が死亡順位1位となっている(以前は胃癌・大腸癌が1・2位だった)。
※大腸癌単体で考えると増えているので混乱しないように(特に女性の大腸がんが増えている・大腸癌の項目で後述する)。
癌の発症リスクの現状・予想は以下の通り(ただし研究者によって多少見解は異なる)
- 肺癌は、禁煙が主流となっているので減少する可能性が高い。
- 胃癌は、原因が分かったので、今後も減少が続く。
- 前立腺癌・乳癌が増えてきつつある。
癌のステージ
全ての癌は「原発巣の大きさと浸潤をT因子」「リンパ節の転移をN因子」として、程度を分類している。
T因子
T1a | T1a | がんが粘膜内にとどまる。 | がんが粘膜内にとどまる。 |
T1b | T1b | がんが粘膜下層にとどまる。 | がんが粘膜下層にとどまる。 |
T2 | T2 | がんが固有筋層にとどまる。 | がんが固有筋層にとどまる。 |
T3 | T3 | がんが食道外膜に浸潤する腫瘍。 | がんが食道外膜に浸潤する腫瘍。 |
T4 | T4 | 周囲の組織(臓器)に浸潤する腫瘍 | 周囲の組織(臓器)に浸潤する腫瘍 |
消化管腫瘍の検査診断法
消化管腫瘍の検査・診断法は以下が挙げられる。
- 潜血(検便によるスクリーニング)。
- 胃・注腸による造影X線⇒(微量ではあるが)被爆の可能性・今後減っていく可能性。
- 内視鏡検査(重要)
- 腫瘍マーカー(術後追跡検査)
- CT・MRI・超音波(浸潤・転移)
- PET(保険が効かない検査・全身に癌があるかどうかをチェック)
腫瘍マーカーの役割について:
腫瘍マーカーは、進行したがんの動態を把握するのにつかわれているのが現状で、早期診断に使えるという意味で確立されたものは、残念ながらまだない。
腫瘍マーカーは上記のように言われているが、前立腺癌の腫瘍マーカー(PSA)だけは早期発見に使えるとされている。
食道癌
食道がんの特徴は以下の通り。
- 食道粘膜から発生する、上皮性悪性腫瘍。
- 95%が扁平上皮癌。
- 60歳以上の男性に多い。
好発部位
「胸部中部」が50%とダントツで、次に「胸部下部」が続く。
※胸部中部は気管分岐部でもある。
危険因子
喫煙・飲酒・熱い食事・食道アラカジア・腐食性食道狭窄。
Barret食道(扁平上皮が円柱上皮に変形すること)
喫煙・飲酒はほどほどに
食道癌は飲酒との因果関係が強く言われている。
また、喫煙との因果関係も(飲酒ほどではないが)言われている。
飲酒・喫煙のダブルだと、食道癌リスクもグッとっ高まるので注意!
文献によっても異なるが以下などが言われている。
- 飲酒毎日1.5合以上だとリスク12倍(未満だと4倍)。
- 喫煙毎日20本以上だとリスク5倍(未満だと2倍)。
- 毎日飲酒1.5合以上・喫煙20本以上でリスク33倍。
症状
初期はしみる感じのみ。
↓
徐々に嚥下障害も生じる。
浸潤(癌が広がる)による症状として以下などが挙げられる。
- 反回神経(嗄声)
- 交感神経(ホルネル症候群:眼瞼下垂・縮瞳)
- 迷走神経(徐脈)
診断
ヨード染色(ヨードは赤色のうがい薬の様なもの。これで食道を色付けする)を内視鏡で確認することで診断する。
- 健康部位であれば染まる(色が付く)。
- 癌部位があれば、そこは染まらない(色が付かない)。
ちなみに、検査をする際は翌日から絶食してもらわないと、食道に食塊が付着してしまい「食塊の影響で染まっていないのか、癌だから染まっていないのか」が判別し辛くなり、正確な検査が出来ない。なので、検査前は絶食指示をきちんと守ろう。昔は「ご飯を食べずに来るように」と言うと、「(白米を食べずに)パンを食べて検査に来た人もいたようだ。なので現在は「何も食べないように(水は例外)」というように、もっと具体的な指示を出すのが通例となっている。
治療
- 早期癌:内視鏡下で切除
- 進行癌:食道切除⇒リンパ節廓清+再建
※「進行癌の切除不能例」は化学・放射線療法 or 姑息的手術(対処療法)としてのバイパス・ステント
胃癌
男女ともに、悪性腫瘍の死因第2位ではあるものの減少傾向。
胃癌のポイントは以下の通り。
- 胃粘膜の上皮性悪性腫瘍。
- 危険因子として食生活や萎縮性胃炎がある。
- 検診の普及や内視鏡の進歩が、早期癌の発見に役立っている(なので死亡率減少)。
危険因子
- 食生活(ニトロソアミン含有)
- 萎縮性胃炎
- ヘリコバクター・ピロリ
ヘリコバクター・ピロリが胃癌の危険因子であることが判明したため、これを事前に退治しておくことで、胃癌が激減した。
ヘリコバクターピロリは胃潰瘍の危険因子でもあるため、ピロリ菌を除去することで、胃癌や胃潰瘍が生じにくくなる。
転移について
胃癌は移転しやすいという特徴を有しており、具体的には以下の通り。
- リンパ節転移⇒ウィルヒョウのリンパ節転移(鎖骨上窩)
- 血行性転移 ⇒肺・肝への転移
- 播種性転移 ⇒クルーケンベルグ転移・シュニッツラー転移・腹膜転移
転移の用語まとめ:
ウィルヒョウのリンパ節転移=胃癌が鎖骨上窩に転移
クルーケンベルグ転移 =胃癌が卵巣に転移
シュニッツラー転移 =胃癌がダグラス窩(直腸子宮窩)に転移
症状
初期症状:
症状無し(なので発見した時には手遅れになっていることも。ピロリ菌を除去しておこう)。
進行癌:
体重減少・吐血・下血(タール便)・癌性腹膜炎・腹水
検査法
- 胃X線検査(バリウム)
- 胃内視鏡検査および超音波内視鏡検査
- ヘリコバクター・ピロリ抗体検査
- 便潜血検査
その他、ペプシノゲン検査、腹部CT・超音波検査、腫瘍マーカー血液検査など。
便潜血検査もスクリーニングとして有用である。面倒くさがらずに検便しよう。
ただし、検便前に肉を食べると、その血が便に混じることもあるため、偽陽性になる可能性がゼロではない。なので、検査前に肉を食べるのは控えたほうが良い。
胃癌の5年生存率
統計による胃癌の5年生存率は以下の通り。
- 胃癌全体で約70%
- ステージⅠで90%
- ステージⅡで80%
- ステージⅢで50%
- ステージⅣで10%
なぜピロリ菌は胃酸の中でも生き続けられるのか?
尿素をアンモニアに変える「ウレアーゼ」という蛋白をバクテリアは持っている。
バクテリアは尿素があるから(アンモニアのバリアを作れるため)生きていける。バクテリアがアンモニアを出すからトイレが臭い(尿素が臭いわけではない)。トイレがメチャクチャ臭いということは、それだけ(尿素をアンモニアに変える)バクテリアが多いことを意味する(公園のトイレとか臭い)。
ピロリ菌はアンモニア(のバリア)を自身の周りに出して胃酸(酸性)を中和することができる。なので胃の中で生きていける。
※ピロリ菌は(芽胞のような)硬いバリアを持っているわけではない(←国試に出た)。
ウレアーゼとは:
1926年にジェームズ・サムナーがナタマメのウレアーゼをタンパク質としては初めて結晶化することに成功し、酵素の主成分がタンパク質であることが明らかになった。その後、ウレアーゼは活性中心にニッケルを含む酵素であることが判明し、現在では完全な結晶構造も明らかになっている。
胃潰瘍の原因菌として知られるヘリコバクター・ピロリは本酵素を発現してアンモニアを産生し、局所的に胃酸を中和することで胃内での生息が可能となっている。
~ウィキペディアより引用~
ピロリ菌を退治することで潰瘍は以下まで減らせる。
- 胃潰瘍 ⇒50%
- 十二指腸潰瘍⇒90%
上記のデータは、逆に考えると「胃潰瘍の原因は(ピロリ菌以外に)50%は不明」ということになる。ただし、ピロリ菌以外の可能性の中でも、「ストレス刺激が潰瘍の可能性」というのは、今後も減ってくると言われている。
ストレス刺激が胃潰瘍の原因とされたのは、マウス実験によるもの。
「ネズミを狭い部屋に閉じ込めてストレスを感じさせたら潰瘍が生じた」という結果から生じたもので、ストレス刺激が胃潰瘍にあたえる影響を完全否定するものでは無い(そもそも、ストレス刺激は交感神経・ストレスホルモンなど様々なものに影響を与え恒常性を乱すことは当たり前のように知られている)。
大腸癌
大腸癌の特徴は以下の通り。
- 大腸粘膜から発生、多くは腺癌。
- 食の欧米化により増加傾向にある。
前述したように、食道癌・胃癌は減ってきているが、大腸癌は増加傾向で、特に女性に多い(性差がある)。食の欧米化が原因と言われている(昔の日本人は大腸癌少なかったので)。
成因・リスク因子
- がん遺伝子の関与
- 高脂肪食・低繊維食
- 炎症成長期大腸炎
- 線腫性ポリープ(家族性大腸ポリポーシスなど=癌化しやすい)
- S字結腸⇒直腸⇒上行結腸の順に生じやすい。
家族性大腸ポリポーシス(家族性大腸腺腫症)とは:
家族性大腸ポリポーシスとは、ポリープが大腸に沢山できること(100個以上の腺腫が存在するもの)。
腸癌の中でも、遺伝子の要因が発生に深く関与していると考えられている(つまり癌化しやすい)。
症状
- 初 期:無症状、便秘、出血
- 進行癌:通過障害・腹痛・血便。
食道疾患
食道炎
食道炎のポイントは以下になる。
- 噴門部括約筋の機能障害は原因となる。
- 腹圧が上昇する肥満は危険因子となる。
- 胃食道炎は呼吸疾患(肺炎など)や耳鼻科疾患の原因となる(胃酸の逆流により)。
- 逆流性食道炎のある人は食後すぐに横にならないほうが良い。
食道憩室(しょくどうけいしつ)
食道壁の一部が袋状に突出したものであり、下咽頭で後方に突出したものをツェンケルの憩室と呼ぶ。まれに出血することもあるが、通常歩は症状がない。
憩室は食道だけに生じるわけではなく、「十二指腸憩室」「大腸憩室」などもある。
マロリー・ワイス症候群
嘔吐を繰り返しているうちに食道下端部の粘膜に裂傷を起こして嘔吐するものをマロリー・ワイス症候群と呼ぶ。飲酒後の嘔吐に伴うものは日常的にも多い。
食道静脈瘤
食道静脈瘤は、肝硬変などで門脈圧が上昇し、側副血行路が発達し、食道下端の静脈瘤が拡張したもの。
出血した際に「出血部位が同定できない」「内視鏡が治療がすぐにできない」などの理由からゼングスターケン・ブレイクモア・チューブが応急処置に使われる場合がある。
ゼングスターケン・ブレイクモア・チューブ(胃内バルーンと食道バルーンを空気で膨らませ、食道静脈瘤を圧迫止血するのに使われる道具)である。
食道静脈瘤は門脈圧亢進に伴い、側副血行路である食道粘膜下の血管が拡張したものである。出血をしないかぎりは無症状であるが、破裂すると大嘔吐の原因になり、上部消化管内視鏡検査で確認する。嘔吐の予兆として少量の下血(黒色便)が先行することもある。応急的にはゼングスターケン・ブレイクモア・チューブを挿入する(肝硬変も参照)。
胃炎
ここでは、急性胃炎と慢性胃炎に分けて記載していく。
急性胃炎
急性胃炎は「胃粘膜に限局した炎症」を指す。
原因
外因:
薬物・温度差のある食べ物、コーヒー、アルコール、タバコなど。
内因:
感染、尿毒症、ストレスなど。
症状
胃膨満感、悪心、嘔吐、食欲不振、上腹部痛
治療
原因除去・食事療法
※胃が治るまで胃に負担がかかることを控える(外因・ストレスが原因と思われる際に有効)
薬物
- 鎮痛薬に注意(アスピリンなどの過剰服用で亡くなった人も昔いた)
- 胃粘膜保護剤を使用
慢性胃炎
慢性胃炎の特徴は以下の通り。
- 長期に「軽快・悪化」を繰り返す。
- 炎症が胃腺~胃全体に及ぶ(急性胃炎は限局)⇒萎縮につながる。
※様々な段階あり。
原因
外因・内因は急性胃炎と類似。
その他、内分泌障害・自己免疫性機序が言われている。
治療
急性胃炎に準ずる。
特に原因除去が重要。
消化器潰瘍
胃壁・腸壁の潰瘍
↓
上腹部(心窩部痛、ときに背面への放散)
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の特徴(違い)
- 胃潰瘍 は食後の痛みが多い
- 十二指腸潰瘍は空腹時痛が多い
※国試で頻出!!
症状
上腹部痛(心窩部痛、時に背面への放散)
悪心、嘔吐、食欲不振、体重減少、嘔吐、下血(タール便)、胸焼け、ゲップなどの症状。
※無症状もあり。
診断
胃X線写真におけるニッシェが特徴。
造影剤を使用することで、X線写真で以下が確認される。
・胃潰瘍はニッシェ(外方に突出)が確認されるが確認される。
・胃癌は内方への凹みが観察される
原因
原因は以下などの説がありる。
バランス説:
消化器壁への攻撃因子(胃酸・ペプシン)&防御因子(粘液)
ストレス刺激により攻撃因子↑で生じる。
粘膜防御機構の低下:
プロスタグランジンの減少により粘膜防衛機構が低下する。
ピロリ菌による影響:
前述した通り。
治療
原因除去:
ストレス・食事・ピロリ菌の除去
※酸分泌抑制剤+抗生剤の併用
ピロリ菌除去による胃潰瘍の治癒率は以下のように言われている。
- 胃潰瘍:~50%
- 十二指腸潰瘍:~90%
手術:
出血、狭窄、穿孔(穴が開く)は、緊急を要するので手術が必要。
腸閉イレウス
機械的イレウスと機能的イレウス
腸閉イレウスは「腸の通過障害」を指す。
つまり「絞扼によるイレウス(機械的イレウス)」だけがイレウスではなく、「機能的イレウス(機能的閉塞)」も該当する。
機械的閉塞
機械的閉塞は、腸腔内癒着を意味する(絞扼による通過障害が該当)。
原因として「悪性腫瘍の浸潤」や「腸重積」が含まれる。
腸重積とは、何らかの拍子に「自分の腸を食べ物だと思って食べてしまうことで腸が重なってしまう状態」を指す。
機能的閉塞
機能的閉塞は「腸の蠕動運動が起こらないことによる通過障害」を指す(絞扼によって生じるわけではない)。
腸の蠕動運動が起こらない原因として、麻痺性・腹膜炎・中毒症・脊髄障害などが挙げられる。
悪性腫瘍では、(前述した機械的閉塞だけでなく)末期では機能的イレウスも起こりえる。
自覚症状と治療
自覚症状
腹痛・嘔吐・腹部膨満・蠕動運動↑↓・便秘
治療
保存的治療(輸血・ガス排除)
絞扼性では緊急の対処(手術)が必要
腸炎
腸炎は、急性腸炎・虫垂炎・難治性炎症性腸疾患・過敏性腸症候群などが挙げられる。
急性腸炎
- 原因はウィルス・細菌・原虫が挙げられる(⇔虫垂炎は細菌性のみ)。
- 食中毒(感染性病原菌)にり、下痢・腹痛・悪心・嘔吐などの症状が起こる。
- 1~2週間の急性経過をたどる(経過は短い)。
- 腸炎は、便培養・遺伝子診断により診断される。
- 治療としては、水・電解質管理。「菌原生の腸炎」であれば抗生物質の投与が挙げられる。
虫垂炎
虫垂炎は、虫垂に化膿性炎症を起こりたもの。
虫垂炎は、細菌性感染症である(ウイルス性感染ではない!)。
以前は虫垂を手術により切除していたが、現在は(細菌感染なので)抗生物質により治療が可能となっている(ただし、今現在も外科的処置が優先なこともある)。
初期症状は上腹部通だが、徐々に右下腹部に限局する(初期から右下腹部痛ではない)。
白血球数↑、CRP+、赤沈↑。
診断の補助となる有名な所見は以下の通り。
- マックバーネー点(右下腹部のASISと臍を結んだ外側1/3の位置)の圧痛
- ランツ点(左右のASISを結んだ右1/3の位置)の圧痛
- 反跳痛・ブルンベルグ兆候(圧迫した手を離すと痛みが増強する現象)
- 筋性防御(ある時点で急に腹筋に力が入る現象)
過敏性腸症候群
過敏性大腸炎は器質的な異常がく(=機能的疾患)、炎症所見が認められないのが特徴である。
発症や悪化には心理社会的な要因が関与していることが多いとされている。
症状としては「腸管の運動緊張の亢進、分泌機能亢進、下痢、便秘、腹部(下腹部)痛、自律神経、心身症」などが挙げられる。
胃神経症
過敏性腸症候群と類似した疾患として、胃神経症という概念もある。
胃神経症とは以下を指す。
また、上腹部の不定愁訴が3カ月以上持続し、局所病変や原因となる全身性疾患のないものを以下のように呼ぶ。
- NUD(Non-Ulcer Dyspepsia)
- FD(Functional Dyspepsia;機能性胃腸症)
炎症性腸疾患(難病)
難病とは、発症原因不明で治療法も存在しないものを指す。
そして、腸における難病の特徴は以下の通り。
- 原因不明
- 若年成人
- 病像は「クローン病」と「潰瘍性大腸炎」
クローン病と潰瘍性大腸炎の大きな違いは以下の通り。
クローン病
消化管壁の全層の炎症を起こす非連続性病変。
つまり、舌から肛門まで消化管のあらゆる部位に病変がみられる。
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜・粘膜下層をびまん性に侵す。
つまり、(直腸から口側への連続した病変が)大腸のみにみられる。
クローン病
好発年齢は20歳代。
症状
右下腹部痛(回盲部に該当)、下痢、微熱、体重減少、低タンパク血症、難治性痔瘻。
検査所見
白血球数↑、CRP+、赤沈↑
注腸造影
回盲部を中心に病変、非連続性病変。
縦走潰瘍・敷石像・瘻孔が特徴的
生検
全層性炎症、非乾酪性肉芽腫性病変
治療
食事療法:
- 腸管の安静とアレルギー抗原の除去が目的。
- 高カロリー輸血、経腸栄養を施行。
薬物:
- 対処療法(鎮痛剤・止痢剤)
- 免疫抑制剤(自己免疫疾患ではないかと言われているため)
- 抗菌剤
- ステロイド
外科:
狭窄・瘻孔除去
潰瘍性大腸炎
症状
発熱、腹痛、血便、粘血便
※潰瘍なので血便が出る。
内科的療法
安静、重症に応じ薬物投与
外科的療法
絶対的適応は大出血・穿孔・癌化・内科的に無効な場合など。
潰瘍性大腸炎は安倍首相が公表したことで有名。
難病とは前述したように「治療法が確立されていない」というのが特徴。
虚血性大腸炎
機序
腸間膜動脈分岐部に好発⇒閉塞・狭窄⇒虚血⇒腸粘膜の壊死
年齢:
高齢者(50~70歳)に多い
基礎疾患:
基礎疾患として、高血圧・高脂血症・糖尿病・動脈硬化・喫煙・心房細動
症状:
突然の左腹部激痛・下痢・下血・白血球数↑
内視鏡所見:区域の不整潰瘍、多発びらん
クローン病との比較:
年齢
クローン病⇒若年層
虚血性大腸炎⇒高齢者
症状
クローン病 ⇒右下腹部
虚血性大腸炎⇒左腹部
X線像
鉛管状(ハウストラ消失)
※本来なら大腸はジャバラ(ハウストラ)状になっているはずが、鉛管状になっているのが特徴。
内視鏡
小潰瘍・偽ポリポーシス
注腸造影:
母指圧痕像・狭窄像
治療:
保存療法が基本(輸液・安静・絶食により数日で改善)
※つまり治り易い疾患。
場合により外科的治療(腸管壊死・穿孔などが適応)
虚血性大腸炎の好発部位
虚血性大腸炎は大腸のどの部位にも起きるが、とくに多いのが「下行結腸」。
次に多いのが「S状結腸直腸の境目」。
これらの場所は、大腸を栄養する主な動脈のつなぎめにあたり、血流が乏しいためとされている。
ダンピング症候群
ダンピング症候群は、胃切除後に生じる疾患で、具体的には以下の通り。
治療
ダンピング症候群の治療は「食事療法」が基本となる。
- 食事回数を増やす・一回に少量(つまりダンピングを抑制する)
- 高タンパク・高脂肪食(血糖の急上昇を抑制する)
- 食後安静
その他、以下などが治療手段として挙げられる。
- 副交感神経遮断薬
- 外科的治療(吻合口の縮小)
ダンピング症候群は「早期」と「後期」に分類される。
早期ダンピング症候群
早期ダンピング症候群は食後30分程度に生じる。
消化管ホルモンが急激に分泌⇒末梢循環血流↑・小腸運動↑
消化管ホルモンによる反応によって以下が生じる。
後期ダンピング症候群
食後2~3時間後に以下が生じる。
上記は以下の機序によるインスリン反応によって生じる。
腹膜炎
腹膜炎は以下の3つに分類される。
- 急性腹膜炎
- 結核性腹膜炎
- 癌性腹膜炎
急性腹膜炎
急性腹膜炎は「穿孔(穴が開く)により、細菌や胆汁が腹膜へ侵入することで生じた腹膜炎」こと。
機序
急性腹膜炎は
胆嚢炎・虫垂炎・潰瘍などの穿孔⇒腹膜炎(限局性)⇒汎発性腹膜炎
症状
腹痛・悪心嘔吐・発熱←この3つが特徴で、どれもメチャクチャ辛い!
髄膜刺激症状(筋性防御・反跳痛=ブルンベルグ徴候)
※汎発性腹膜炎ではショックを伴うことがある。
治療
絶食・補液・ショックに対する対処。
※ショックにより多臓器不全に陥いると予後不良。
結核性腹膜炎
結核性腹膜炎は結核菌に起因する(結核菌の播種)。
症状は、腹水貯留(しばしば血性)。
治療は、抗結核剤(これが発明されて予後良好になった)
癌性腹膜炎
癌性腹膜炎は、ガン細胞の播種である。
症状は、腹水貯留(しばしば血性)。
癌性腹膜炎の原発巣としては脾臓・大腸・胃・卵巣が挙げられる(これらの癌からの転移が多い)。
大腸疾患の好発部位(国試に出る)
腸疾患の好発部位は以下になる(国試で出題される!)。
疾患 | 好発部位 |
クローン病(難病) | 回盲部 |
潰瘍性大腸炎(難病) | 全結腸(除く小腸・肛門部) |
急性出血性腸炎 | 横行結腸 |
大腸癌 | S状結腸・直腸など |
虚血性大腸炎 | 左側結腸脾湾曲部、S状結腸 |
家族性腺腫性 ポリポーシス |
全域 |
緊急処置を必要する腹痛(急性腹症)
緊急処置を必要とする腹痛を「急性腹症」に該当する。
以下は医師が見逃したら「免許剥奪モノ」な腹痛で、あん摩マッサージ指圧師も覚えておく必要がある。
原因 | 病名 |
血管や臓器の破裂 | 腹部大動脈破裂、子宮外妊娠、肝臓がん破裂 |
血管の閉塞 | 腸間膜動脈閉塞症、絞扼性腸閉塞、卵巣膿腫茎捻転、虚血性腸炎 |
胃腸の閉塞 | 腸閉塞、ヘルニア嵌頓(かんとん)、S状結腸軸捻転(じくねんてん)、腸重積(ちょうじゅうせき) |
胃腸の破裂 |
胃潰瘍穿孔、十二指腸潰瘍穿孔、急性虫垂炎穿孔、急性虫垂炎穿孔、憩室炎穿孔、大腸癌穿孔、食道破裂 |
重症の腹膜炎 | 急性虫垂炎、急性胆道炎、急性膵炎、急性骨盤腹膜炎 |