この記事では、あん摩マッサージ指圧科目における要点解説をしている。
皮膚受容器について
皮膚受容器
皮膚の受容器(触圧覚受容器)としては以下が挙げられる。
- メルケル盤
- ルフィニ終末(小体)
- マイスナー小体
- パチニ小体
- 毛包受容体
また、皮膚受容器には「痛み受容器(自由神経終末)」も存在し、具体的にが挙げられる。
- 温度受容器(温受容器・冷受容器)
- 侵害受容器
侵害受容器は「ポリモーダル受容器+高閾値機械受容器」に分類される。
- ポリモーダル受容器⇒弱い痛み(ジーンとする痛み・2次痛覚)
- 高閾値機械受容器(強く刺すような痛み・1次痛覚)
深部感覚受容器
深部感覚受容器としては以下などが挙げられる。
- 筋紡錘(筋の伸展感覚に応答する受容器)
- 健紡錘(骨格筋の長さに応答する受容器)
触・圧覚の求心性神経は、末梢神経ではAβ線維にて伝達され、中枢神経では以下で伝達される。
- 後索-内側毛様帯路(後索路) 80%
- 脊髄視床路⇒ 20%
※ちなみに顔は、脊髄神経ではなく脳神経(三叉神経)に支配されている。
・脊髄反射(デルマトーム)―皮フ分節
様々な反射
圧自律神経反射
「圧自律神経反射の学説」は高木 健太郎(1954年)によって提唱された。
学説の特徴は以下の通り。
- 圧発汗反射・皮膚圧半側発汗現象とも呼ばれる
- 皮膚の触圧刺激は交叉性に反対側の発汗促進など交感神経機能を変化させる(副交感神経機能にはフォーカスされていない)。
圧迫による変化は以下の通り。
|
圧迫側 |
非圧迫側 |
発汗 |
減少 |
増加 |
腋窩温 |
低下 |
上昇 |
血圧 |
下降 |
上昇 |
鼻粘膜 |
毛細血管拡張(鼻閉) |
毛細血管収縮(鼻開) |
ツェルマークへーリング反射
ツェルマークへーリング反射とは以下の通り。
アシュネルの眼球心臓反射
アシュネルの眼球心臓反射とは以下の通り。
アルント・シュルツの刺激法則
アルント・シュルツの刺激法則は以下を指す。
- 弱い刺激 ⇒生物機能の鼓舞
- 適度な刺激 ⇒ 亢進
- 強い刺激 ⇒ 抑制
- 最も強い刺激⇒ 停止
強い圧迫法は「単に圧迫した部分のみでなく、その神経分布領域にまで鎮痛効果が現れるワレー圧痛点」に対して圧迫法を行うと、その作用が著しくなる。
自律神経反射の色々
内臓⇒内臓反射
例えば以下などが内臓⇒内臓反射に該当する。
- 胃⇒結腸反射(例:食べたらトイレに行きたくなるなど)
- 頸動脈圧迫による迷走神経反射
- 徐脈⇒呼吸数減少⇒血圧下降
体性⇒内臓反射
以下が体性⇒内臓反射に該当する。
- 皮膚・筋・関節などに加えられた刺激は、中枢神経を介して脊髄レベルの効果器(内臓)の機能を変化させる。
- 血圧・心拍数・胃腸管運動(排便・排尿・血糖上昇を促進)など
- アシュネルの眼球反射⇒眼球圧迫による迷走神経反射
内臓⇒体性反射
内臓⇒体制反射は、以下の反射を指す。
- 内臓体性知覚反射(ヘッド帯)
⇒表在痛・知覚過敏・知覚鈍麻
内臓に疾患があると、一定の皮膚領域(デルマトーム)に知覚過敏体が現れる
- 内臓体性運動反射(マッケンジー帯)
⇒筋硬結・筋緊張
内臓に疾患があると、筋肉・結合組織の過敏帯(ミオトーム)が現れる。
過敏帯(ミオトーム)について
過敏帯の現れやすい皮膚分節は以下の通り(諸説あり)。
- 心臓 :主に左のC3-C4、Th2-Th8
- 肺 :C3-C4、Th2-Th9
- 胃 :(両側あるいは左の)Th6-Th12
- 肝 :主に右のC3-C4、Th6-Th10
- 胆のう:Th7-Th11
- 腸 :Th9-Th12(便秘)
- 腎臓 :Th12-L1
- 子宮 :Th10-L1
- 前立腺:Th1-Th12 S1-S3
- 膀胱・肛門:L1-L5
恒常性(ホメオタシス)について
内部環境の恒常性
身体における「恒常性」という概念は、クロード・ベルナールが提唱した。
恒常性には「血液(体液)による緩衝作用」が重要な関連を持つ。
ホメオタシス(恒常性維持機能)
ホメオタシスの概念は、ウォルター・キャノンが提唱した。
1859年頃、生理学者クロード・ベルナールは、生体の内部環境は組織液の循環等の要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)と提唱した。これを1920年代後半から30年代前半頃に生理学者ウォルター・B・キャノンが古典ギリシア語で同一の状態を意味する「ホメオスタシス」と命名した。
急激な環境変化に対する調節系を「交感神経―アドレナリン系」と呼び、これによる反応を「緊急反応」と名付けた
ストレス反応とストレス刺激
ハンス・セリエは、「ストレス学説」や「ストレス反応とストレス刺激」などを提唱した。
汎適応症候群(ストレス学説)
汎適応症候群は、キャノンが提唱した学説であり以下を指す。
ストレス刺激とストレス反応
ストレス刺激:ストレッサーと同義。生体に刺激となるすべてのもの。
ストレス反応:ストレス刺激が作り出す生体のゆがみ
ストレスの3大様相の反応
キャノンは、ストレス反応(ストレスの3大様相の反応)として以下を挙げている。
- 副腎皮質の肥大
- 胸腺や脾臓の萎縮
- 胃・十二指腸の潰瘍
3つの時期症候群
ストレス刺激が除去されなかったり、ストレス反応が強すぎる状態が続くと、以下のように反応が進行していく。
第1期 (警告反応期) |
①ショック相:刺激に対する抵抗性の低下 ②反ショック相(交絡抵抗期):積極的な防衛反応期。全ての刺激に対して抵抗力増加。 |
第2期 (抵抗期) |
交絡感作期とも呼ばれる。 ・刺激に順応・身体内部安定 ・最初の刺激に対する抵抗力以外は低下 |
第3期 (疲弊期) |
刺激反応能力の消失⇒死亡 |
適応病とは
適応病とは、適応反応をうまく引き出せない場合に出現する疾患を指す。
- ストレス刺激の強さと、これを受ける期間の長短
- ストレス刺激を受ける側の生体適応エネルギー(生命力)・・先天の病気
- 条件付け因子(後天的に鍛えられた体力・生活環境・食事など)・・後天の病気
ゲートコントロール説
ゲートコントロール説はメルザックとウォールが提唱した概念である。
※ゲートコントロール説は門学説とも呼ばれる。
ゲートコントロールの概要は以下の通り。
- 体表への触圧刺激などの太いAβ線維の興奮は、脊髄に働いて痛み中枢への伝達を遮断する。
- 脊髄ではAβの興奮は、後角膠様質のSG細胞の活動を高め、痛みを伝えるT細胞の働きを抑制する。
運動法の種類
種類 |
方法 |
筋力テスト |
作用 |
他動運動 |
術者が運動させる |
0~1の場合 |
機能回復(自動運動が可能になるまで行う) |
自動介助運動 |
術者自身の力または術者・器具の介助により関節運動をする |
2の場合 |
筋力増強、可動域の維持及び拡大が目的 |
自動運動 |
患者自身が行う |
3の場合 |
筋力増強(程度に応じた機能回復運動) |
抵抗運動 |
術者と患者で行う |
4~5の場合 |
筋力増強(段階的に抵抗を調整する) |
各種体操法
- 腰痛症⇒ウィリアムズ体操(腰背筋の伸張、腹筋の筋力強化)
- 五十肩⇒コッドマン体操(=アイロン体操:肩関節可動域の改善)・棒体操
- 椎体圧迫骨折⇒ベーラー体操(背筋の筋力強化)
- 頸腕症候群⇒ネーゲリーの伸頭法(頸部の牽引)
あん摩マッサージ指圧における「刺激量」と「作用」
刺激量の決定
刺激量は以下などで調整が出来る。
- 力度(力の強弱)×施術者の体格
- 手技の種類(手技の選択)×手技の順序(順番)
- 施術時間の長短 子供・老人は短い方が良い(45~30分)or 1時間 など
- 患者の感受性⇒性別・年齢・職業・マッサージを受けた経験の有無・体格・施術部位
強い刺激⇒肘頭圧迫法(グリグリ肘で揉捏するのはNG)
作用
あん摩マッサージ指圧における5大作用は以下の通り。
種類 | 弱刺激で短時間 | 適応 |
興奮作用 | 強刺激で長時間 | 運動麻痺・知覚鈍麻 |
鎮静作用 | 興奮的効果と鎮静的効果がある | 神経痛・知覚過敏・筋痙攣 |
反射作用 | 患部より中枢側を施行 | 内臓疾患(胃アトニー・胃部不快感・便秘・下痢など) |
誘導作用 | 患部より中枢側を施行 | 充血・腫脹・関節水症 |
矯正作用 | 癒着部の剥離や軟部組織の伸張 | 関節拘縮・筋の短縮 |
あん摩・マッサージの種類
あん摩(古法あん摩)の種類
按腹図解
- 墨規矩の術:肩上部・肩甲間部・脊柱両側への左右同時性手掌軽擦
- 肩井の術:墨規矩の術の経絡を母指揉捏
- 督脈の術:督脈↑の母指軽擦・圧迫
- 寿骨の術:耳後・髪際・項窩の軽擦・揉捏
- 骨分の術:手を広げ骨間(背部の各肋間)を手早く軽擦
- 鳴骨の術:手を横に立てて、肩上部・肩甲間部・脊柱両側の筋に当て、小指の本筋に当て骨を擦らせ音を出す曲手(あおり手のこと)。
- 頭維の術:左右の頭維と左右の角孫を同時にあん摩する手技(歯痛に用いる)
家法導引三術図解
- 解釈:揉捏法
- 利関:関節運動
- 調摩:軽擦法
医療マッサージ①(治療マッサージ・看護マッサージ・訪問マッサージ
ここでは、医療マッサージとして以下を記載していく。
- 治療マッサージ
- 看護マッサージ
- 訪問マッサージ
治療マッサージ
内科:
消化器疾患(胃アトニー、胃下垂、慢性便秘、下痢、過敏性腸症候群)
神経疾患(神経痛、知覚異常、麻痺、痙攣など)
外科(整形外科):
手術後の関節拘縮、筋萎縮などの後療法。先天性筋性斜頸や内反足、外反足に対し矯正法を利用
産婦人科:
乳汁分泌不足など(乳房マサージ)
心療内科:
不眠症・神経症・心身症・ヒステリー・解離性障害など
看護マッサージ
看護マッサージは「長期臥床の患者の衰弱、褥瘡の予防・回復」を目的に行う。
訪問マッサージ
要介護高齢者に対するマッサージ療法を指す。
効果として期待できるものとして以下が挙げられる。
- 関節可動域改善
- 筋緊張や硬結の緩和
- 浮腫の改善(下肢)
- 疼痛の軽減
- リラクゼーションの効果により不眠改善や気分変化
- 全身の血行改善による褥瘡予防
医療マッサージ②(結合組織マッサージ)
ここでは結合組織マッサージについて記載していく。
結合組織マッサージは、エリザベート・ディッケ女史によって創始された。
結合組織マッサージの定義は「皮下結合組織への徒手刺激療法」である。
前述した「内臓―体性反射」により、皮下結合組織に異常が現れる。
治療方式としては以下が挙げられる。
- ディッケ方式⇒仙骨に始まり尾側から頭側に治療を進めていく方法
- ロイベ方式 ⇒皮下緊張を診ながら、順序にこだわらずに行う方法
徒手検査
結合組織マッサージにおける徒手検査法は以下の通り。
- ハンゼン氏皮膚波法⇒皺(しわ)を診る
- 皮膚牽引法 ⇒皮膚のゆるみを診る
- 視診
- 診断的滑擦
- 知覚テスト
基本手技
結合組織マッサージの基本手技は以下の通り。
- 擦過軽擦(平たい滑擦)
- カギ形軽擦(立てた滑擦)