この記事では、細菌感染について記載していく。
目次
猩紅熱の概要
猩紅熱は、別名「A型溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染」とも呼ばれる。
猩紅熱の概要は以下の通り。
症状
感染(2~4日)⇒急性上気道炎、咽頭炎、扁桃炎(38~40℃発熱)
発症後12~24時間⇒発赤皮疹(毒素による)
診断
感染症状・皮疹
検査所見
抗ストプレトリジンO抗体(ASO)抗ストレプトキナーゼ抗体(ASK抗体)↑
治療
ペニシリン・セファム系抗菌剤
経過
リウマチ熱・急性糸球体腎炎・弁膜症
猩紅熱の備考
風邪と類似した症状だが、発熱が特徴。
猩紅熱で生じた「抗体」が、腎臓や心臓に賃借することで「急性糸球体腎炎」や「心弁膜症」が生じるのが特徴。
抗体が悪さをするのがポイント。
ペニシリンが開発されてからは、猩紅熱は激減し、予後も良くなった。
また、猩紅熱の激減に伴い(20・30代といった比較的若い層での)糸球体腎炎や心弁膜症も激減した。
※高齢者の糸球体腎炎・心弁膜症が減少したわけではない点は誤解なきよう。
百日咳の概要
百日咳の概要は以下の通り。
症状
感染(潜伏期1~2週)⇒カタル症状(1~2週)⇒痙咳期(2~6週)
カタル症状
(鼻などから)浸出液が出てくること(要は鼻水みたいなもの)
痙咳
毒素が気管支平滑筋に作用することで生じる。
吸期時に笛を吹くような音(吸気性笛性音)を認める。
診断
菌の分離同定。抗体価&リンパ球↑
治療
マクロライド系抗菌剤
備考
百日咳菌に感染することで起こる。
5類感染症に該当する。
ジフテリアの概要
ジフテリアの概要は以下の通り。
症状
飛沫感染(1~7日潜伏)⇒咽頭炎・発熱⇒気道偽膜形成(呼吸困難)⇒毒素を生む
毒素の作用
- 心筋障害:頻脈・不整脈・心不全
- 神経障害:軟口蓋麻痺・眼球麻痺・横隔膜麻痺・四肢麻痺
治療
ペニシリン、マクロライド系抗菌剤、抗毒素血清
備考
昔は非常に予後が悪かったが、ペニシリンが開発されたため、現在の死亡率は1%未満。
第2種感染症に該当する。
コレラの概要
コレラの概要は以下の通り。
機序
経口感染(1~3日)⇒小腸粘膜細胞に侵入⇒小腸粘膜内毒素による水排出促進⇒白色便(水溶性便)⇒脱水。
症状
腹部不快感・無痛性下痢(水様白色便)・嘔吐・口乾・乏尿・筋痙攣
診断
上記臨床症状、病歴、細菌検査(遺伝子)
治療
安静・輸血・抗菌剤(テトラサイクリン系など)
経過
2週間以内に菌排出。
2週間以内に菌は排出されるが、それまに生じた「下痢による脱水」に注意が必要。
現在では「脱水」という概念が浸透しているが、江戸時代は(脱水という概念が無かったため)「下痢症状が続いていたと思ったら、コロッと死んでしまう(痛くもなんともないのに、脱水で死ぬ)」という人が多くいた。
なので「コロリ」という俗称で呼ばれることもあったという。
備考
コレラ菌による急性小腸炎を指す。
第3類感染症に該当する。
百日咳・ジフテリア・コレラの共通点
百日咳・ジフテリア・コレアには共通点があり、それは以下になる。
同じ毒素(ADP)が悪さをすることで症状が誘発されている
つまり、毒素がターゲットとしている組織が異なるから、症状・病名も異なっているということ。
各疾患において、ADP(毒素)がターゲットとしている組織は以下になる。
- 百日咳(5種感染症) ⇒気管(なので呼吸器症状が出現する)
- ジフテリア(2種感染症)⇒咽頭(なので咽頭炎などが生じる)
- コレラ(3種感染症) ⇒腸 (なので下痢症状が出現する)
赤痢の概要
赤痢の概要は以下の通り。
機序
経口感染(1~4日)⇒大腸粘膜細胞に侵入⇒大腸粘膜潰瘍⇒出血・膿性滲出液・粘液過剰分泌⇒膿粘血便。
症状
悪寒・発熱・腹痛・下痢(水様粘血便)
診断
上記臨床症状、病歴、細菌検査(遺伝子)
治療
安静・輸血・抗菌剤(ニューキノン・カナマイシンなど)
経過
1週間以内に回復。
1週間以内に菌は排出されるが、それまでに生じた「下痢による脱水」に注意が必要。
備考
赤痢菌による急性大腸炎である。
第3類感染症に該当する。
症状に関して、「赤痢(大腸感染)=血便」なのに対して「コレラ(小腸感染)=水様便(水分の多い下痢状便)」なので、コレラは(赤痢との対比で)『白痢』と呼ばれることもある。
腸チフス・パラチフスの概要
腸チフス・パラチフスの概要は以下の通り。
機序
経口感染(5~15日)⇒小腸粘膜細胞に侵入⇒腸間リンパ節⇒血液⇒全身性感染症。
症状
悪寒、発熱、全身倦怠感、食欲不振、便秘・下痢、バラ疹、敗血症症状、肝・脾腫大。
※上記で特に「バラ疹」が特徴的。
粘膜内毒素による水排出促進⇒白色便・脱水
診断
上記臨床症状、渡航歴、血液・便・尿の細菌培養同定(遺伝子)
治療
輸血、抗菌剤(ニューキノロン、クロランフェニコール)
予後
昔は死亡率50%だった時期もあるが、現在は抗菌剤が開発され、死亡率1%に激減している。
備考
腸チスフ菌・パラチフスA菌への感染で生じる、急性熱性疾患である。
第3類感染症に該当する。
コレラ・赤痢・腸チフス(+パラチフス)の共通点
コレラ・赤痢・腸チフス(+パラチフス)の共通点は以下である。
- 旧法定伝染病
- 第3種感染症
- いずれも脱水に対する対処が重要(水分補給など)
- 抗菌剤が有効(抗生物質の発明で、致死性が低下した)
- 問診では渡航歴の聴取が重要(海外で感染する)
第3種感染症なので「食品製造等特定業務への就業制限」を受ける。
関連記事⇒『感染症の種類(1~5類感染症)の一覧表』
ブドウ球菌の概要
ブドウ球菌は以下に分類される。
- 黄色ブドウ球菌
- 表皮ブドウ球菌
ブドウ球菌に感染すると、以下の症状が出現する。
- 化膿性病変(毛嚢、皮膚、軟部組織など)
- 皮膚剥脱症候群
- 毒素性症候群(高熱・敗血症、下痢、発疹紅斑、意識障害、腎不全)
そして上記症状の中で、特に『敗血症』が覚えておくべき重篤な症状となる。
敗血症とは
敗血症とは、血管から菌が全身に回り多臓器不全(複数の臓器が機能不全に陥る)となる病態を指す。
そして、敗血症は死亡率が高いという特徴がある。
しかし「ブドウ球菌は抗生物質に弱い」という特徴を有しているので、抗生物質の発見により、敗血症の罹患率が低下し、多臓器不全が生じることは少なくなった。
しかし、(ブドウ球菌に強い)抗生物質の存在が、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を誕生させてしまうことになる(MRSAについては後述)。
黄色ブドウ球菌による食中毒
前述した「症状」には記載していないが、黄色ブドウ球菌は細菌性食中毒の原因菌としても有名。
黄色ブドウ球菌による食中毒の特徴は以下の通り。
- 潜伏期間が短い(数時間で発症)。
- 耐熱性エンテロトキシンを産生する。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とは
MRSAとは「ブドウ球菌が抗生物質への耐性をつけたモノ」である。
抗生物質への耐性を付けるまでの機序は以下の通り。
- 黄色ブドウ球菌にペニシリン(抗生物質)を投与する。
↓
- 黄色ブドウ球菌が「完全に」消滅する前にペニシリン投与を辞めてしまうと、生存しているブドウ球菌が「ペニシリン耐性」を付けてしまう。
※ペニシリンは「菌の細胞壁を溶かしてしまう作用」があるのだが、ブドウ球菌がペニシリン分解酵素を獲得してしまい、細胞壁を溶かせなくなってしまう。
↓
- 次に研究者はメチシリンという薬剤を開発した。これは上記の「ペニシリン分解酵素(ペニシリナーゼ)」を阻害する薬剤である。
↓
- これにより、ブドウ球菌を消失させることができると期待したのだが、ブドウ球菌はメチシリン耐性まで獲得してしまった。
↓
- MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)の誕生。
処方された薬は最後まで使い切ろう!
上記の機序で分かるように、ターニングポイントは「黄色ブドウ球菌をペニシリンで完全に消滅できなかったこと」にある。
よく医師が「この薬剤は、症状が無くなって薬剤が余ったとしても、最後まで飲み切って下さい」というのは、潜在的に病原菌が生きている可能性があるからだ。
中途半端に病原菌を生き残らせてしまうと、非常に厄介な病原菌にクラスチェンジしてしまうため、この事は頭に留めておこう。
また、病院の院内感染としてもMRSAは有名だが、これも医師が上記の判断を誤って、病原菌が消滅せず残ってしまったことに起因する場合がある。
破傷風
破傷風の概要は以下の通り。
機序
外傷⇒傷口から菌増殖⇒毒素生成⇒毒素による神経障害(末梢から中枢へ)。
潜伏期(4~7日 or 4~5週)⇒周囲筋の緊張・痙攣⇒四肢反射亢進(受傷側)
症状
随意筋の痙攣により以下が認められる。
- 開口障害
- 顔面筋痙攣(痙笑:笑っていないのに笑っているように見える)
- 体幹・四肢の痙攣(後弓反射:全身を後方へのけぞらせるような反射)
- 嚥下障害(嚥下筋が上手く収縮せず、呑み込みが難しくなる)
- 全身痙攣により激しい疼痛が生じる(こむら返り時の痛みをイメージ⇒それが全身に生じると想像すれば痛みが理解できる)
診断
上記臨床症状、病歴、細菌検査(遺伝子)
治療
外傷後のトキソイドワクチン。
経過
予後は悪い。
しかし現在、私たちは3種混合ワクチンを接種しているので感染リスクは低い。
備考
破傷風菌への感染で生じる。
第5類感染症見込みである。
破傷風菌は嫌気性菌である。
嫌気性とは
「嫌気(けんき)=酸素を嫌う」という意味。従って嫌気性菌は、空気を伝播して感染しないという特徴がある(ヒトヒト感染しない)。
では、どのような場所に生息しているかというと「土」である。例えば私たちが「土の中に紛れている釘」を踏んでしまった場合、破傷風菌が存在しており、感染するリスクもある。戦時中は、破傷風で亡くなる兵士も多かったという。ただし現在では、(前述したように)私たちは現在「3種混合ワクチン」を摂取しているので、感染リスクは(昔に比べると極端に)低い。