外因③ 生物学的要因 | 病理学

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この記事では、病気の「外因」について、生物学的要因にフォーカスして解説していく。

 

目次

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感染とは

 

具体的な疾患の解説の前に、「感染」と「発症」の違いについて記載していく。

 

各々の違いは以下の通り。

 

感染とは

病原微生物が体に侵入し、定着・増殖した時に表現される。

 

発症(発病)とは

症状を呈した時に表現される。

 

 

初感染で、最初に上昇するのはIgM

 

初感染で、最初に上昇するのはIgMである。

IgG高値は、既に感染していること示している。

 

 

顕性感染・不顕性感染・潜在感染

 

感染と発症の関連性は、例えば以下の通り。

 

顕性感染

⇒発症する

 

不顕性感染

  ⇒感染しても生体の抵抗力が強く、免疫を獲得し、治癒してしまう。

※つまり、感染しても発症せずに治癒してしまう。

 

潜在感染(=潜伏感染)

⇒病原体が体内に居続ける。病状が悪くなった時に感染。

※例えば「ヘルペスウィルス」、「水痘・帯状疱疹ウィルス」。

※ヘルペスウイルスは、三叉神経節に生息し、体力低下時に口角などに水疱を形成する。

潜在性感染日和見感染は違う:

潜在性感染は「感染しているが(病原体が体内に居続けて)すぐには発症せず、免疫が落ちた際に発症する感染」を指す。一方で日和見感染は(免疫が落ちて)「本来であれば病原性を示さない弱毒病原体によって引き起こされる感染」を指す。

 

ウイルス・細菌・真菌・原虫の特徴

 

ウイルス・細菌・真菌・原虫の特徴は以下の通り。

 

ウイルス

細胞に寄生して、寄生した細胞のタンパク合成装置を利用して増殖する。

自身だけでの増殖は不可能。一番小さい。

 

細菌

核を持たない細胞(原核細胞)であり、二分裂により増殖する能力を持つ。

 

真菌

カビの一種で、核を持つ細胞(真核細胞)。周囲の環境が整えば自己増殖が可能。

 

原虫

マラリアなどの単細胞で、人や動物に寄生して増殖し、疾患を起こす。

 

細菌(原核細胞)

 

細菌は以下に分けて記載していく。

  • グラム陽性球菌
  • グラム陽性桿菌
  • グラム陰性桿菌
  • グラム陰性球菌
  • その他

球菌・桿菌、陽性・陰性の違い:

球菌とは「丸い菌」で、桿菌(かんきん)とは「長細い菌」である。

陽性菌は「赤色」で、陰性菌は「紫色」である。

 

グラム陽性球菌

 

黄色ブドウ球菌

化膿食中毒・様々の病態

ブドウ球菌はエンテロトキシンという毒素を産生し、これが食中毒の原因となる。

 

A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)

黄色ブドウ球菌と同様に「化膿」が特徴。溶連菌は多彩な疾患の原因となり、発症機構としては化膿性・毒素性・免疫学機序の関与がる。

  • 化膿性⇒咽頭炎(=扁桃炎)丹毒(たんどく=皮下で拡がる)
  • 免疫学的⇒リウマチ熱糸球体腎炎
  • 毒素⇒猩紅熱劇症型溶血性連鎖球菌感染

 

B群溶血性連鎖球菌(GBS:Group B Streptococcus)

膣内に常在し、通常は無害。新生児の骨髄炎の原因となることがある。

A群β溶血性連鎖球菌GASも(GBSと同様に)と略することもできるが、溶連菌と言う名称が一般的。

 

肺炎球菌

肺炎球菌は、肺炎のみならず、中耳炎骨髄炎も引き起こす。

肺炎球菌にはワクチンが存在するため、肺炎になり易い高齢者は利用することが多い。

意外かもしれないが「肺」という用語とイメージがかけ離れている「(小児の)中耳炎」や「骨髄炎」の原因にもなりえる点に注意。肺炎球菌のワクチンを接種することは、これら症状の予防にもつながる。

 

腸球菌

腸内に常在し、通常無害。時に尿路感染症。

 

 

グラム陽性桿菌

 

破傷風ボツリヌス菌炭疽菌(すべて芽胞を作る)やジフテリア菌などは強い病原性。

※ジフテリア菌は芽胞を形成しない。

 

バチルス・セレウス

バチルス・セレウスは、環境中に生息している。

例えば「おしぼり」や「雑巾」に生息し、加温で増殖、食中毒の原因となる。

※増殖しているかは異臭で分かる。

芽胞を形成する。

菌が血中に入ると敗血病になる。

乾燥・洗濯・通常消毒では芽胞が除去できない。従って洗濯しても異臭が取れない「体拭きタオル」などは、バチチルス・セレウスが付着しているかもしれない。

バチルス・セレウスには塩素性消毒が有効(例えばブリーチ。何度もブリーチをして布が劣化していくのは致し方ない)。

 

 

クロストリジウム・ディフィシル

クロストリジウム・ディフィシル(クロストリジオイデス・ディフィシル)は、芽胞を形成する。

抗菌薬投与により(大腸の常在細菌が大きく変化し)クロストリジウム・ディフィシルが大量に増殖し、その毒性が原因となって『偽膜性腸炎(症状としては下痢)』が起こることがある(これを菌交代現象と呼ぶ)。

検査としては、CDトキシンが陽性となる。

治療としてはバンコマイシン、メトロニダソールが有力(バンコマイシンは、MRSA治療薬としても有名)。

 

グラム陰性桿菌

 

腸内細菌化細菌

  • 大腸菌
  • サルモネラ⇒食中毒を起こすサルモネラ菌・チフス菌・パラチフス菌・など色々。
  • 赤痢菌
  • クレブシエラ⇒肺炎球菌性肺炎のペニシリン治療後の菌交代現象として肺炎を起こす。「内にあるのに炎桿菌」なので間違わないように。
  • セラチア⇒放置したパンやうどん増殖し、橙色~赤色に着色する。日和見感染として院内で起こり易い。セラチアはパンがキリストの血で赤く着色するキリスト教の故事に因んで「霊菌(れいきん)」と呼ばれることもある。

 

 

ビブリオ系

コレラ菌腸炎ビブリオが該当。

腸炎ビブリオは海産物の食中毒として有名。「強力なビブリオ」がコレラ菌である。

  • 緑膿菌(アシネトバクター族である。エンドトキシンが病因となる。弱毒菌だが、熱傷や褥瘡部に感染し、緑色の膿を生ずる菌)
  • 百日咳菌(「咳」というと何となくウイルスを連想してしまいがちなので注意)
  • インフルエンザ菌(6歳以上65歳未満の肺炎・髄膜炎の原因。ウィルスではなく菌なので、インフルエンザウィルスと混同しないように。Hibワクチンが有効)
  • ペスト菌
  • 腸炎エルシニア菌

 

※エンドトキシンは緑膿菌を含めた「グラム陰性桿菌」の内毒素である。

 

腸管出血性大腸菌(VT)

ベロ毒素(赤痢毒素と同じもの)を産生。

  • O157であることが多い。
  • 動物が持っているので、生レバーを食べるのが危険と言われている。
  • 溶血性尿毒素症症候群(HUS)を起こす(溶血性貧血血小板減少急性腎障害)が3主徴。これらは粘膜・血管を壊すことに派生して生じる。
  • VTは、出血傾向になりDICにも進む。
菌の出すベロ毒素が腎臓の毛細血管内皮細胞を破壊してそこを通過する赤血球を破壊することで溶血が起きる。また平行して急性腎不全となり、尿毒症を発症する。

 

 

グラム陰性球菌

 

淋菌・髄膜炎菌・モラクセラ

 

 

その他

 

ヘリコバクターピロリ

胃潰瘍胃癌

 

カンピロバクター

食中毒

 

レジオネラ

ミストと土埃から感染。在郷軍人病(退役軍人=高齢者が会場のミストで肺炎になった)、ポンティアック熱

 

マイコプラズマ

⇒小学生の肺炎(ペニシリンが効かない)

 

スピロヘータ

梅毒ワイル病レプトスピラ・回帰熱ボレリア・ライム病(藪に入ってダニから感染)

 

クラミジア

⇒現代では性感染症。トラコーマオウム病

 

リケッチア

ツツガムシ病(ツツガムシというダニが媒介)・発疹チフス

 

抗酸菌

結核菌・レプラ菌・非結核性抗酸菌(免疫力低下した人が感染して結核に)

 

 

抗菌薬耐性菌

抗菌耐性菌は、AMPアクションプランの対象になっており、以下などが挙げられる。

  • MRSAチシリン耐性黄色ブドウ球菌バイコマイシンリネゾリドが有効
  • MDRP多剤性緑膿菌コリスチンが有効。
  • MDRA多剤性アシネトバクターコリスチンが有効。
  • PRSPペニシリン耐性肺炎球菌:ペニシリン以外で治療する。
  • CREカルバペネム耐性腸内細菌科細菌コリスチンが有効。

バイコマイシンは偽膜性腸炎にも効く。

コリスチンは副作用強いが、これしか使えるものが無いため、使用する。

CREは抗菌薬としてはメチャクチャ効き、「最後の切り札」的に使用されるが、それの耐性菌も出来てしまった。

  • キノロン耐性菌⇒様々の菌が、レボフロキサシンやシプロフロサキサシンに耐性化。
  • ESBL耐性菌⇒基質拡張型βラクタマーゼ産生する。腸内細菌科細菌に多い。
  • BLNAR⇒βラクタマーゼ陰性、アンピシリン酸耐性インフルエンザ菌。

 

 

真菌

 

真菌(カビ)真核細胞である。

 

陰菌には以下などが挙げられる。

  1. カンジタ⇒種々がある。
  2. クリプトコッカス⇒鳩の糞にいることが多い。髄膜炎の原因に。
  3. アスペルギルス⇒肺に球菌。
  4. ニューモシスチス・イロベチニューモシスチス肺炎(AIDS)の原因に。
  5. ムーコル(ムコール)
  6. コクシジオイディス⇒輸入真菌症。強毒

 

①~⑤は弱毒なので、易感染状態で感染する(日和見感染)。

カビ毒(マイコトキシン)である「アフラトキシン」が強い発癌性(肝癌)を持つ。

※カビ毒(マイコトキシン)とはカビの代謝産物のこと。

※アフラトキシンはピスタチオに生じやすい。

 

 

ウイルス

 

ウイルスはDNAかRNAのどちらかのゲノムを持つ。

タンパク合成装置や核酸合成装置は感染した細胞のものを利用する。(つまり自立して生きれない)。

伝染性単核球性・上咽頭癌。

 

DNAウイルス

 

ヘルペスウィルス

単純ヘルペスウイルス

サイトメガロウィルス巨細胞封入体症

EBウイルスバーキットリンパ腫伝染性単核球症

水痘・帯状疱疹ウイルス

HHV6(ヒューマンヘルペスバイオ6)突発性発疹

 

パルボウイルス

伝染性紅斑

 

パピローマウイルス

⇒イボ・子宮頸癌(イボのウイルスだが、この中のいくつかは子宮頸がんになる)

 

アデノウイルス

流行性角膜炎プール熱(プールで目が赤くなって熱が出る)

 

B型肝炎ウイルス

血液感染(性行為・医療行為)

 

 

RNAウイルス

 

RNAウイルスは、ゲノムがRNAタンパクの殻に包まれている。

 

A型肝炎ウイルス(HAV)

⇒糞口感染(=経口感染)。肝炎は一過性(急性肝炎)。

 

C型肝炎ウイルス(HCV)

⇒血液感染。

慢性肝炎⇒肝硬変⇒肝癌の経過をたどりやすい。

 

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)

⇒血液感染。ヘルパーTリンパ球に感染。CD4陽性リンパ球。

 

成人T細胞性白血病ウイルス(HTLV-1)

⇒血液感染。特にリンパ球に感染する。これを多く含む感染者の母乳

 

インフルエンザウイルス

⇒飛沫感染。

 

エンテロウイルスコクサッキーウイルス

手足口病

 

ムンプスウイルス

流行性耳下腺炎(おたふく風邪)膵炎・睾丸炎につながることも。

 

麻疹ウイルス(はしか)

空気感染・飛沫感染。麻疹脳炎亜急性硬化性全脳炎(治癒から5-10年後に発症するので怖い!)

 

風疹ウイルス(三日ばしか)

先天性風疹症候群(妊娠3-12週ごろの感染による)

 

ポリオウイルス

⇒急性灰白髄炎

 

ノロウイルス

⇒冬期の下痢

 

コロナウイルス

⇒SARSCov・SARSCov2・MERSCov。風邪ウイルスだが高病原性を持ったものがある。

 

デングウイルス

シマカが媒介。重症化すると出血熱(血小板の減少が起こる)

 

エボラウイルス

⇒エボラ熱。代々木公園で大騒ぎになったニュースのあれ。

 

SFTSウイルス

マダニが媒介。重症熱性血小板減少症候群

 

西ナイル熱

イエカヤブカが媒介。

 

ロタウイルス

⇒冬期の小児下痢

 

原虫

 

原虫は単細胞の寄生性生物である。

 

マラリア

が媒介。赤血球に感染。「高熱」「(赤血球が壊れて)溶血することによる脾腫(脾臓が頑張った結果生じる)」が特徴。

 

ランブルべん毛虫(もうちゅう)

⇒ジアルジア症(下痢が特徴)。

 

赤痢アメーバ

⇒大腸・肝(腸管粘膜を破壊して入って、赤血球を食べる)。肛門性交(つまり男性に多い)。

 

トキソプラズマ

母子感染による水頭症

 

トリコモナス

膣炎

 

クリプトスポリジウム

⇒飲料水の汚染で集団の下痢。水道水の塩素消毒は無効

※ちなみに、類似した名称である「クリプトコッカス」はハトの糞に存在する真菌。

 

トリパノソーマ

⇒睡眠病

 

空気感染する病原微生物は「風疹ウィルス」「水痘帯状疱疹ウイルス」「結核菌」である。

 

 

寄生虫

 

アニサキス

サバ・イカの生食。イルカやクジラの回虫(体内を巡る)であり、イカの中で幼虫になり、それをサバが食べる。

 

条虫(サナダムシ)

サケ・マスの生食。

 

吸虫

アユ・白魚の生食。

 

顎口虫(がくこうちゅう)

マムシ・ドジョウ・フナの生食。

 

エキノコッカス

イヌ・キツネの便

※類似した名称である「クリプトコッカス」はハトの糞に含まれる真菌。

 

衛生昆虫

 

衛生昆虫はダニ・蚊・ゴキブリ・クモなどが該当するが、ここでは「ダニ」にフォーカスして記載していく(蚊は、ここまで解説している記事内に点在しているので、それを参照)。

 

ダニにアレルギー(ダニ自体に病原性がある)

  • ヤケヒョウヒダニ
  • コナヒョウヒダニ

 

ダニが病原体を媒介

  • ライム病
  • SFTS
  • 日本紅班熱
  • ツツガムシ病(ツツガムシというダニが媒介する)

 

ダニ自体が体に侵入

ヒゼンダニ

疥癬(皮膚を破って中へ入って移動するので、疥癬トンネルができる)

 

 

日和見感染と菌交代現象

 

日和見感染

日和見感染とは、易感染者に弱毒菌が感染することを指す。

潜在性感染との違いに注意。

日和見感染の原因となってしまう疾患(免疫力を低下させてしまう疾患)としては白血病・重症糖尿病・悪性リンパ腫・エイズなどが該当する。

 

 

菌交代現象

菌交代現象とは、ある感染症に抗菌薬投与すると、その抗菌薬に抵抗性を持つ菌が増殖する現象。

※目的菌は減少する。

クロストリジウムディシフェルクレブシエラなどが該当する。

菌交代現象は、常在細菌叢が宿主の条件によって変化することを意味する。具体的には、抗生物質の投与によって大腸の常在細菌が大きく変化し、クロストリジウム・ディシフェルが大量に増殖して偽膜性大腸炎が発生する病態などがある。
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