脊柱の疾患 | 整形外科

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この記事では、脊柱の疾患について記載している。

 

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先天性筋性斜頚

 

筋性斜頚とは「一側(稀に両側)の胸鎖乳突筋の線維化・短縮」が生じる。

 

先天性筋性斜頚は、生まれて約1週間後に胸鎖乳突筋内に腫瘤が発生する。

「先天性」という用語が用いられてい入るものの、生まれた直後に斜頚が生じるわけではない。生まれた直後には斜頸が生じるかどうかわからない。
  • ほとんどの症例が、生後1か月程度で腫瘤消失・自然治癒する。
  • ただし、1才6カ月を過ぎても拘縮を残すものは手術適応となる。

 

原因

原因がハッキリと分かっているわけではないが「胸鎖乳突筋の外傷説」が有力。

先天性筋性斜頸の発症例には以下が多い。

  • 骨盤位分娩(いわゆる「逆子のお産」)
  • 巨大児

そして、上記により以下の外傷が生じることが斜頸の原因となっているのではと考える。

分娩時に頭頚部が引っ張られ、出血(血腫)が生じ、それが肉芽組織(腫瘤)⇒筋組織へ置換される。

 

症状

  • 先天性筋性斜頚の症状は以下の通り。
  • 頭位異常(頚部伸展・患側側屈・対側回旋)
  • 頚部運動制限(健側への側屈制限・患側への回旋制限)
  • 健側の後頭部の扁平化(ベッドに健側頭部が常に当たって圧迫変形するから)
  • 顔面の非対称性(患側顔面部の発育が遅れる)
  • 側弯

 

治療

自然治癒効果が期待できるので保存的治療が中心。

内容は「母親への指導」などで、具体的には以下が挙げられる。

抱き方・授乳の方向・音光の方向・頭位を正中位に保持して寝かせる(枕の位置など)

 

また、1才6カ月を過ぎても斜頸が残存する場合は手術(胸鎖乳突筋切断術)も検討する。

※胸鎖乳突筋を大人になって切断したら、頚部の支持性が大幅に低下する。しかし、生後直ぐに切断した場合、胸鎖乳突筋の機能を他の筋が代償して発達してくれるので問題ない。

 

禁忌

腫瘤へのマッサージは禁忌である。

斜頸の原因が外傷説だと仮定した場合、腫瘤(肉芽組織)がマッサージにより瘢痕組織へ変化し硬くなる可能性があるため禁忌である!

 

 

特発性側弯症

 

特発性側弯症とは「原因不明の側弯症」を指し、側弯症全体の7割を占める、女性に多い。

特発性側弯症は女性に多い:

・乳幼児期の特発性側弯=3歳未満の男に多い

・学童期 の特発性側弯=3~10歳に多い(性差無し)

思春期 の特発性側弯=11歳以上の女に多い

※上記のうち、特発性側弯の8割は思春期に発症。従って「特発性側弯は女性に多い」ということになる。

 

以降は、「思春期の特発性側弯」にフォーカスして解説していく。

 

思春期側弯症

 

思春期側弯症の特徴は以下になる。

 

症状

  • 体幹の変形(脊柱の側弯+回旋)
  • 側弯が強度になることによる腰痛・片肺の圧迫(肺の機能不全)
特発性側弯は回旋が非常に大きい症例が含まれるのが特徴。

 

診断

  • 肩の高さ左右差
  • 胴脇三角の左右差
  • 肩甲部の突出
  • 前屈による肋骨隆起(rib hump;リブハンプ)

 

X線検査

X線検査によりCobb角(コブ角)を確認し、その角度に応じて治療を選択していく(Cobb法)。

  • ~20°   ⇒経過観察
  • 20°~50°⇒装具法(ミルウォーキー装具を使用)
  • 50°以上  ⇒手術

 

椎間板ヘルニア

 

椎間板ヘルニアの定義は以下になる。

椎間板の退行変性により、椎間板の一部が後方または後側方に突出して神経圧迫症状を示すもの

 

椎間板ヘルニアの好発部位は「頸椎」と「腰椎」である。

 

頸椎・腰椎椎間板ヘルニアにおける症状の違い

脊髄はL1付近で終わり、それより尾側は「馬尾神経(脊髄神経根の束=末梢神経)」が通っている。

従って以下のように整理する。

  • 頸部のヘルニアでは「脊髄(中枢神経)」が圧迫される場合がある。その際は中枢神経障害が生じる。
  • 腰部のヘルニアでは「馬尾神経(末梢神経)」が圧迫されるため、末梢神経障害しか生じない。

 

頸椎椎間板ヘルニア

 

頸椎椎間板ヘルニアの特徴は以下になる。

 

好発年齢

40歳代に多い(⇔腰椎椎間板ヘルニアは若年者に多い)

 

好発部位

C5/6> C6/7> C4/5の順に多い。

 

症状

後方ヘルニアでは脊髄圧迫症状が生じる(頸椎で特徴的)。

側方ヘルニアでは神経根圧迫症状が生じる。

 

高位診断

この診断は側方ヘルニア(神経根圧迫症状)で使える。

Hoppenfeld(ホッペンフェルド)の文献が有名で、具体的には以下の通り。

 

疼痛誘発テスト

疼痛誘発テストは「側方ヘルニアにより神経根が圧迫されている場合」に有効。

頸椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テストは以下になる。

  • ジャクソンテスト(頸椎伸展位にて圧縮刺激)
  • スパーリングテスト(頸椎側屈+伸展位にて圧縮刺激)

 

治療

膀胱直腸障害では緊急手術。

それ以外では保存療法⇒手術療法の順。

 

保存療法

・物理療法(ホットパック・牽引療法・マッサージなど)

・運動療法

・内服(NSAIDs+筋弛緩剤)+湿布

リリカ(末梢神経修復薬)が処方されることも。

リリカは副作用が強いため、日本では帯状疱疹など限定した疾患にのみ処方される傾向にある。副作用は多様だが、特に注意を要すのは「眠気」「ふらつき」であり、高齢者は転倒のリスクあり。従って、効果的とされる処方量(150×2回)を投与するまでに、副作用の反応を観察しつつ段階的に投与されるのが一般的。副作用が軽微であれば、2-3か月の服用で痺れ感が大幅に改善されることもある。リリカは「突出したヘルニアを低減させる効果」があるわけではなく、「突出したヘルニアによって微細損傷を受けた神経の修復」であり、効果が出るまでに一定期間を要す。従って、通常の鎮痛剤と併用処方されることが多い。

手術療法

ヘルニアを除去する手術を行う。

近年は「内視鏡によるレーザー照射(椎間板はタンパク質なのでレーザーで焼くことが可能)」が行われることもある。

日本に内視鏡手術が導入された当初は「照射が不十分で、ヘルニアが再発するケース」が多発したが、最近では大幅に改善されている。

内視鏡手術のメリットデメリットは以下の通り。

  • 侵襲刺激を最小限に出来る(なので入院期間・安静期間が短い)というメリット。
  • 内視鏡を扱えるレベルの医師が限られている。

 

 

腰椎椎間板ヘルニア

 

腰椎椎間板ヘルニアの特徴は以下になる。

 

好発年齢

20~40代に多い(頸椎ヘルニアに比べ、若い人に多い)

 

好発部位

L4/5(L4神経根)・L5/S1(L5神経根)で90%を占める。

 

症状

  • 急性腰痛と共に発症することもある。
  • ただし、腰痛は「無いor軽微」というケースも多く、下肢症状だけのこともある。
  • 椎間板ヘルニアの定義は「(ヘルニアの画像所見+)神経症状を伴っていること」である(腰部・頚部の疼痛有無は関係ない)。
ヘルニアと診断するためには神経症状を伴っている必要がある。一方で後述する変形性脊椎症は画像所見で骨棘が認められれば(症状の有無に関係なく)診断名が付く。

急性腰痛を有しているヘルニアでは以下の特徴がみられ、これはギックリ腰(腰椎急性捻挫)と共通の症状である。

疼痛性跛行・疼痛性側弯・運動制限

 

高位診断

この診断は側方ヘルニア(神経根圧迫症状)で使える。

Hoppenfeld(ホッペンフェルド)の文献が有名で、具体的には以下の通り。

※ほとんど「L4/L5」「L5/S1」のヘルニアだが、「L3/4」もゼロではないため掲載されている。

  • L4/L5間のヘルニア⇒母趾伸展力の低下・アキレス腱反射正常
  • L5/S1間のヘルニア⇒母趾屈曲力の低下・アキレス腱反射減弱化~消失

 

 

疼痛誘発テスト

腰椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テストは以下になる。

  • 下肢伸展挙上試験(SLRテスト:Straight leg raising test)⇒正常では90°
  • ラセーグテスト(下肢90°屈曲位から膝関節伸展):坐骨神経(L4-S3)の圧迫
  • 大腿神経伸展テスト:大腿神経(L1-L4)の圧迫

Valleirの圧痛点

坐骨神経が大坐骨切痕から梨状筋下孔を通過し末梢に出てくる部位を押した時、圧痛を認めることがあり、これを「Valleirの圧痛点」と呼ぶ。

 

治療

膀胱直腸障害では緊急手術。

それ以外では保存療法⇒手術療法の順。

※詳しくは、前述した「頸椎椎間板ヘルニア」を参照。

 

変形性脊椎症

 

変形性脊椎症は「椎間板変性によりクッション性が低下し、活動により椎間関節への刺激増大⇒骨棘形成」という機序をたどる。

 

変形性頚椎症

 

好発部位

C5/C6C4/C5C6/C7

 

発症年齢

初期:40代~。ただし、肩こり・頚部痛などで外来受診し、たまたま画像所見で骨棘が発見されたから病名が付くなどもあり得る(骨棘が認められるが、症状の原因が骨棘とは限らない)

 

進行期:60代~。骨棘が原因による神経症状を呈するケースあり(骨棘自体が症状の原因)。

診断

  • 単純エックス線で骨棘証明。
  • 神経症状認めるならMRIも。

 

治療

「ヘルニア」の項目を参照

 

 

変形性腰椎症

 

好発部位

L4/5L5/S1

 

発症年齢

初期:40代~

 

進行期:高齢者~。骨棘自体による症状が顕著で、下肢の神経症状を認める場合あり。

進行すると間欠性跛行が生じることも。

この間欠性跛行は、腰部脊柱管狭窄症を意味する。

 

※腰部脊柱管狭窄症は「腰部脊柱管が狭窄する病態の総称」を指すため、「骨棘形成(=変形性脊椎症)による脊椎狭窄」も含まれる。

 

診断・治療

変形性頚椎症と同じ

 

※変形性頚椎症にも言えることだが、長年の関節刺激の蓄積で徐々に悪化していくので、支持性を高めるためにも適切な筋力トレーニングは重要となってくる。

 

 

後縦靭帯骨化症

 

後縦靭帯骨化症は以下を指す。

原因不明に後縦靭帯が肥厚・異所性骨化する疾患

 

どれが後縦靭帯化は以下のイラストを参照。

 

※「骨化」という用語が使わているが、骨レベルにまで靭帯が硬くなるわけではない。

※病的な後縦靭帯が脊柱管を前方から圧迫・狭窄することで症状が生じる。

 

後縦靭帯骨化症の特徴は以下になる。

  • 人種  ⇒日本人・東南アジア人に多い
  • 性差  ⇒男性に多い
  • 好発部位⇒頸椎(胸椎・腰椎の後縦靭帯に発症するのは稀)
  • 年齢  ⇒中年以降に多い
  • 症状  ⇒脊髄・神経症状(無症状の人もいる)
  • 診断  ⇒単純X線で後縦靭帯の骨化を確認。MRIで神経圧迫程度を確認。
  • 治療  ⇒保存的 or 手術(椎弓や骨棘切除による除圧+椎体固定術)

 

 

脊椎分離症(+分離すべり症)

 

脊椎分離症とは「脊椎椎弓の上下関節突起間の骨連結」が絶たれた状態

分離すべり症は、上記に加えて「椎体が腹側に滑っているもの」を指す。

 

好発部位

L5が90%。

残りはL4がほとんど。

 

一方で、分離滑り症は「S1に対してL5が腹側へ滑ること」が多い。

 

受傷機転

過度なスポーツを行う青少年期に腰痛として発症することが多いことから、疲労骨折ではないかと考えられている。

「無症状で、ふとしたタイミングで成人になって気づくこと」もあり、受傷機転が不明(いつ発症したか不明)であることもある。

 

診断

X線検査で斜位撮影を行う。分離症では「スコッチテリアの首輪」として現れる。

 

治療

新鮮例とみなしたら、スポーツ6カ月中止、コルセット着用。

ただし、四肢と異なり(ギプスなどによる)完全固定は困難であり、上記対応でも骨癒合しないケースあり。

陳旧例は癒合の可能性なし。運動療法(腹筋・背筋の筋トレ)⇒神経症状の程度によっては手術のケースあり(分離すべり症で膀胱直腸障害・日常生活に著しい制限をきたす場合など)

 

 

脊柱管狭窄症

 

脊柱管狭窄症(LCS:lumbar canal stenosis)は以下を指す。

 

脊柱管が先天性・後天性の原因で狭窄し、神経圧迫症状を呈し、間欠性跛行が現れるもの

 

間欠性跛行は下肢動脈血流低下(動脈硬化性閉塞症・バージャー病)でも生じる。

従って足背動脈が触診できるかなどによる鑑別が必要。

間欠性跛行の人が来院したら、LCSと決めつけず、側背動脈を触知する習慣をつけること。

 

原因

変形性腰椎症によるものが多い。

 

性差

男性に多い(女性に比べて活動性が高く、腰部負担が大きいことが考えられる)

※女性に多いのは変性すべり症

 

症状

腰痛・下肢神経症状・間欠性跛行

 

診断

MRI

 

保存療法

  • 血管拡張剤(目的から考えても即効性が期待できるものではなく効果は微妙だが、飲まされている人多い)
  • コルセット・杖・シルバーカー
  • その他、物理療法・筋力増強訓練は、他の脊柱疾患と同様。
腰部前屈位で間欠性跛行改善されるため、この肢位を保持するようなコルセットが選択される。

手術療法

除圧術+椎体固定術

 

 

二分脊椎

 

二分脊椎は以下を指す。

脊椎の椎弓部は発達段階で左右が棘突起部で癒合するが、種々の段階で癒合が停止したもの。

 

好発部位

L5とS1

 

二分脊椎の種類

健常人の約二割が潜在性二分脊椎症。

  • 髄膜瘤  ⇒硬膜が皮下に突出(神経症状なし)
  • 脊髄髄膜瘤⇒脊髄・神経根も皮下に突出

 

合併症

  • 水膜炎(生命予後を悪くする)
  • 水頭症(生命予後を悪くする)
  • 脂肪腫
  • 血管腫

 

治療

早期閉鎖術

※無症状であったとしても、前述した「合併症リスク」を考えて手術適応となる。

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